2020年11月18日に発売された
『一歩先の透析医療~理論と実践~』
同書籍を、素人でイチ患者である私がなぜ知ったか、それはTwitter上で
"内科医たけお"こと大武陽一先生がご紹介なさったことがキッカケです。
大武先生がご担当なさった
<Ⅱ 病態に対する対応 1.透析患者の心理の理解と精神疾患(うつ病)・心身症への対応~サイコネフロロジーの基礎~>
に興味があったことは、もちろんですが、加えて
【在宅血液透析】
に関する記述が、独立した章で扱われていたため
同書籍が当然、医療従事者向けのものであることは承知で
素人でイチ患者である私は、購入を決めたわけです。
https://twitter.com/7hYpoVO5tzfBVtn/status/1329680926306025472
私としては、下記文献を読み(※患者レベルの理解度ですが…)
『維持血液透析ガイドライン:血液透析処方』一般社団法人 日本透析医学会
『頻回・長時間透析の現状と展望』日本透析医学会雑誌
患者目線の考察を加えたブログを、先にアップしているので
「少なくとも【在宅血液透析】に関する章に関しては、理解できるだろう」
との目算もありました。
実際に同書籍が手元に届き、サーッと目を通してみて
- 理解できた、知っていた所
- 理解できなかった、知らなかった所
- 患者レベルでは理解する必要のない所
がございました。
そこで今回は【在宅血液透析】に関する記述を含む
<Ⅲ 新しい取り組み>
その中から、私が"知らなかった所"を中心に
私なりの患者レベルでの考察を交えて、ご紹介致します。
尚、目次は下記の通り
Ⅲ 新しい取り組み
「3.エコー下穿刺」については、先述した
"患者レベルでは理解する必要のない所"と、私は判断しておりますので
内容のご紹介は割愛させて頂いております。
目次をご覧いただいて、興味のあるかたは、是非同書籍をご購入下さい。
ちなみに、同書籍は
透析中に読書する際の、私なりの便宜上
"自炊"することで電子書籍化し、それを繰り返し"速聴"することで
内容の理解に努めております。
https://twitter.com/7hYpoVO5tzfBVtn/status/1333304465047257094
【自炊】及び【速聴】に関してご興味ある方は、下記ブログご参照下さい👇
Table of Contents
【透析に関する本】一歩先の透析医療~理論と実践~(HHDに関わる章のみご紹介)
基本的に同書は"医療従事者向け"なので、臨床データに関する記述が多分にある。
ただ、私含めた患者はあまり深入りする部分ではないし、理解する必要もないと思われるので
当該部分については触れません。
1.長時間透析・頻回透析の適応と実践<前田兼徳>
長時間透析・頻回透析のもたらすメリットに関しては
先にご紹介させて頂いたブログの内容とほぼ相違ないと思われ
したがって、ここでは内容重複の観点からあえて触れません。
興味深いのは、「患者側が抱える問題点」も指摘している点。
そこでは、患者が腎不全という病態に対する
「理解不足・無関心」
を挙げている。つまり、患者側も
"医療者おまかせ透析"
から脱皮し治療に対して少しでも前向きになるべきだ、と。
そのためには医療側は、それらの啓蒙活動を怠るべきではない、とも述べている。
著者の、医師としてのスタンスが如実に表されているのは「おわりに」の部分。
透析医療そのものがまるで完成したかのような幻想を抱いてはならない。
(中略)
われわれ医療従事者は無意識のうちに「末期腎不全患者は合併症や愁訴が多く、余命が短いものだ。」という思い込みにとらわれてはいないだろうか?
彼らの合併症や愁訴の多くは慢性的な透析不足に起因している可能性がある。
血液透析という治療の性格上、透析時間の延長や治療回数の増加、血液流量の増加などに心がけて透析量を増やすことができれば、尿毒素除去量の増加に伴い患者の合併症や愁訴は減少し生命予後の改善が期待できる…
(引用元:1.長時間透析・頻回透析の適応と実践 206頁)
また著者は、長時間透析・頻回透析は"良い透析"のオプションの一つであることを認めつつ、下記のように文献を締めくくっている。
もし「至適透析」たるものが存在するとするならば、それは患者の愁訴が少なく、合併症を最小限にとどめ、高いQOLとADLを確保しつつ社会復帰や長期生存を可能にする治療法であり、長時間透析、頻回透析をそのための大きな武器として多くの透析医療者の選択肢に加えていただきたい。
(引用元:1.長時間透析・頻回透析の適応と実践 207頁)
ここでもやはり感じたのは、私に課せられた「責務」。
「2018年慢性透析療法の現況」(日本透析医学会)によれば
2018年末透析患者総数は約34万人、うち在宅血液透析患者は720人、率にして0.2%。
施設深夜透析(in-center nocturnal hemodialysis: INHD)施行患者数に関しては
同著245頁によれば、600人弱と推定。
下記のように、各々が抱える諸問題は依然あるなかで
- 施設深夜透析について言えば、「スタッフの確保」「人件費の確保」(同著243頁)
- 在宅血液透析について言えば「医療材料配送」「医療廃棄物処理」(同著254頁)
同療法を現在進行形で実践している患者は、己のみのことに終始するのではなく
- 絶対に事故は起こさぬよう安全・慎重な手技を心掛けること
- 生命予後に有益とされるような"サンプル"を提供すること
これらを全うする「責務」があると、私は考えます。
そして、このことが
今後より多くの透析患者の方々が「至適透析」を受けられる医療環境実現に繋がると、信じています。
2.透析運動療法の理論と実践<松嶋哲哉>
透析患者のみならず
高齢者運動機能低下対策としての運動療法を論じる上で、重要な概念として
- フレイル
- サルコペニア
がある。
一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会によると
フレイルとは
高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、機能障害、要介護状態、死亡などの不幸な転機に陥りやすい状態とされ、生理的な加齢変化と機能障害、要介護状態の間にある状態
サルコペニアとは
加齢に伴って筋肉が減少し、握力や歩行速度の低下など機能的な側面をも含めて定義されています。
透析患者特有の身体的問題点として、同著では7つの項目を挙げている。
- 心・血管系の併存症リスク
- 筋細胞ミトコンドリアへの酸素輸送上の問題点
- 水素イオンの緩衝能が低い
- 栄養素の欠乏と喪失の問題
- 骨性骨症とアミロイド骨・関節症
- 基礎疾患特有の併存症・合併症
- 安静時間の問題
上記、身体的問題の結果として、血液透析患者の体力は
健常者のそれと比して、著しるしく低下していることが、データとして紹介されている。
健常者を100%とした場合…
- 酸素消費量:50~60%
- 酸素輸送効率:48%
- 下肢筋力:40%
言わば"運動弱者"である透析患者に対し、闇雲な運動は障害に繋がりかねないため
専門家の指導・管理の元で、適切な運動療法の実践が必要なわけです。
"適切な運動療法"を実践するための、医療従事者側の心構え・実践方法等について
我々患者は深入りする必要はないと思われるが
実際どのような運動を、透析中に行っているかはご興味あるかと思いますので
下記動画をご紹介致します。是非ご参照下さい👇
過去のブログで、私は
腎臓リハビリテーションのメインターゲットが"高齢者"となるのは
医療の現場では、ある意味必然。
しかし
透析の世界では「若手」の我々"アラフィフ"世代は
どのように運動と関わっていけばいいのでしょうか?
という問題提起をさせて頂きました。
これは、あくまで個人的見解ですが
全透析患者の中で比較的「若手」に分類される方たちは
上述した、透析患者特有の身体的問題点7項目を理解した上で
ご自身の趣味などとも関連させながら、"動けるうち"に
無理ない程度で、心肺及び骨格筋群へ負荷をかけることで
将来的にフレイル・サルコペニアを回避する可能性を広げてくれるのではないか
と思っております。
ちなみに私自身現在行っている運動は、ストレッチ系のヨガが中心です(上記ブログ参照)。
4.施設深夜透析(オーバーナイト透析)<山川智之>
"長時間・頻回透析"の定義でいえば
私が行う在宅血透析(HHD)は「長時間」も「頻回」も可能ではあるが
現実的には「頻回」血液透析を選択している患者が多いのではと推測する。
これに対し施設深夜透析(オーバーナイト透析)は、完全なる「長時間」血液透析の代表であろう。
HHD導入時、施設深夜透析(オーバーナイト透析)について認識はしていたが
漠然とではあるが、私には「"不向き"かな?」との思いがあった。
加えて、将来的にHHDからINHDへ移行することは考えていない
結果、あまり能動的に勉強していなかったので
同書の記述内容は非常に有意義であった。
特に目を引いたのは2点
- INHDの適応
- INHDの安全対策
INHDの適応
平たく言うと、「INHD適応患者は限られる」ということ。
下記のような身体的問題を抱える透析患者は、安全面での考慮から除外されるという。
- 血圧が不安定
- 重篤な不整脈、治療が必要な虚血性心疾患がある
- 大きな血圧変動をきたす程の除水を要する体重増加がある
- VA(バスキュラーアクセス)不良
- 透析中の睡眠困難
加えて、著者のいる医療施設では
フルタイムで就学・就労しており、昼間・準夜透析を選択することが困難な患者を
原則適応としているようである。
INHDの安全対策
血液透析は体外循環を伴うため一旦事故が起こった場合、最悪患者の生命にも関わることから安全に施行されることが大前提
(引用元:4.施設深夜透析(オーバーナイト透析) 249頁)
とした上で、INHD特有の安全対策を講じる必要があるという。
その一つが「失血センサー」の設置。
日本透析医学会の調査では、失血センサーを患者全員に使用している施設は、全体の51.6%と半数に上っている。
また、患者監視用モニターカメラを患者全員に使用している施設も、全体の48.4%とほぼ半数
大半の施設がINHD向けに失血対策の対応を行っているようです。
INHD施行に際しての問題点
在宅血液透析同様、全国でINHD患者は1000人にも満たない。全国的な普及にほど遠い原因として
- 夜勤ができる透析スタッフ及び医師の確保
- 人件費含むコストの問題
を挙げている。
5.在宅血液透析<喜田智幸>
先述したように、在宅血透析(HHD)は「長時間」も「頻回」も理屈上可能ではあるが
現実的には「頻回」血液透析を選択している患者が多いと思われる。
「頻回血液透析」のメリットに関しては、先にご紹介した過去ブログをご参照下さい。
ここでは同書で述べられている、在宅血液透析の課題に絞ってご紹介致します。
在宅血液透析の課題
医療材料の配送
透析液・生理食塩水・ダイアライザー・血液回路等
在宅で血液透析を行うための医療材料・薬剤は、かさばるし重い。
これらを現状
- 透析液などは同薬剤会社が
- ダイアライザー、血液回路などは医療卸会社が
配送に"協力"して頂いている形で、我々HHD患者は恩恵を受けている。
このことはつまり
過疎地や離島など、配送が困難な地域では費用負担が重くなり
結果的に、同地域での在宅血液透析が浸透しない一因となっているという。
廃棄物処理
同書によると
廃棄物処理法では、在宅医療廃棄物は家庭ごみで、家庭系一般廃棄物とされる。
一般廃棄物の収集、運搬および処理は、地方自治体の責任であることから
その帰結として、HHDに関する医療廃棄物の収集、運搬には、自治体の協力が不可欠である。
従来は「感染が不安」「危険である」との理由から非協力的であったものの
近年は自治体のHHDに対する理解が進み、協力してくれる地域も増えているようです。
透析廃液排水
同書によると
水質汚濁防止法では、透析廃液は生活排水と規定されてる。
下水道が整備されている地域では、在宅血液透析廃液を排水することに支障はない一方で
浄化槽を利用する地域で且つ、条例等で厳しい水質規制を行っている地域では
より高性能な浄化槽へ変更する必要もあるようです。
まとめ(個人的な疑問)
以前から個人的に疑問に思っていることがあって、それは
在宅で"オーバーナイト透析"を行う条件、です。
同書206頁には、下記のような記述があります。
施設で行う長時間透析や頻回透析は、何より治療による拘束時間が長いことが最大のデメリットである。そのような観点からも治療時間や治療時刻、治療頻度に対する自由度た高く、短時間・長時間頻回透析やオーバーナイト透析を可能とする在宅血液透析は、透析患者の自立の象徴ともいえる魅力的な選択肢である。
一方で同書249頁には(重複しますが)
血液透析は体外循環を伴うため一旦事故が起こった場合、最悪患者の生命にも関わることから安全に施行されることが大前提である。
とし、施設深夜透析では「止血センサー」「患者監視用モニター」の設置することで安全を担保している。
ここで私個人的には一つの"矛盾"を感じざるを得ない、つまり
在宅での"オーバーナイト透析"は、なにを安全の担保として行われているのか?
という点です。
施設深夜透析では、少なくとも透析スタッフ及び医師をはじめとした医療従事者は常駐している。
それに加え「止血センサー」「患者監視用モニター」を設置し患者の安全を担保して初めて"オーバーナイト透析"が可能となっている(と私は思っている)。
在宅血液透析においては、一般的に医療従事者は不在である。
「止血センサー」や「患者監視用モニター」も(私の場合は)設置されていない。
このように一見して、患者生命の安全を担保しているとは言い難い状況下にも関わらず
オーバーナイト透析を可能とする在宅血液透析は
と言い切る理由が、私には合点がいかないのです。
私の在宅血液透析を管理して頂いている医療施設では、"原則"オーバーナイト透析は禁止されているようです。
もし"原則禁止"である在宅での「オーバーナイト透析」を、患者側が"ゴリ押し"し
それに対し病院側が「患者の"自己責任"」「患者の"自己決定"」で許可しているとしたら…
小松美彦著『「自己決定権」という罠』では
「自己決定」と「自己決定権」とを明確に区別しています。
自己決定というのは、起こっている事柄それ自体のことです。
(中略)
自己決定権とは、自己決定することを、社会や国家が、個人の権利として認めるということです。
(中略)
自己決定とは、よくよく考えてみれば、そういう他者との複雑な網の目のなかで行われるしかないものであって、そういう意味では、純粋に自己決定はありません。私たちの行なう決定は、好むと好まざるとにかかわらず、いつも本質的に共決定であることを強いられているといえます。
(引用元:小松美彦著『「自己決定権」という罠』
繰り返しになりますが(あくまで個人的見解として)
今後より多くの透析患者の方々が「至適透析」を受けられる医療環境実現、その一助となるため
在宅血液透析を現在行う患者は、己のみのことに終始するのではなく
- 絶対に事故は起こさぬよう安全・慎重な手技を心掛けること
- 生命予後に有益とされるような"サンプル"を提供すること
これらを全うする「責務」があると、私は考えます。
コトは患者の生命に直接関わります。
曖昧な判断基準、そして全てを患者の「自己責任」「自己決定」に委ねることの危うさを、感じざるを得ません。
万が一事故が発生した場合に、患者"のみ"に責任が転嫁されることのないような仕組みの構築を
医療関係者の方々には切にお願い申し上げるとともに
私含めた在宅血液透析患者は、自己の決定は"本質的に共決定である"ことを、正確に理解し認識する必要はあると思います。
現在、在宅にて"オーバーナイト透析"を行っている患者様が一定数いらっしゃることは認識しており、したがって、
決してその方々を"批判的"に捉える趣旨では、決してありません。
透析中の事故無きこと、そして不幸にも万万が一事故が発生した場合に、その責任が
患者"のみ"に転嫁されることへ懸念、それが一番の趣旨です。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。