在宅血液透析導入の際
患者が一番気になる「自己穿刺」
これまで、メンタル面や痛みにフォーカスして
私なりの経験談をお話させて頂きました。
どちらかと言えば、患者の内面を描写するよう
努めたつもりでおりますが、そもそも
「自分で自分の血管に、どうやって刺すんだ?」という
シンプルに知りたいと思われることを、失念しておりました。
手技そのものに単純にフォーカスするのも面白いかな、と。
つまり
自己穿刺一連の手技を細かく言語化することで
動作の❝棚卸し❞を行う。
言語化した自分の手技を読み返してみて、もしかしたら私個人的に
現在よりもスムーズな穿刺動作の発見があるかも。
まずは
在宅血液透析導入を検討中の方にとって
実際に自己穿刺を行う前のイメージトレーニングになれば幸いです。
また
私と同じぐ現在HHDを行っている方にとっては
「自分とはちょっと違うな」
「そのやり方はないよ」
「そのやり方意外といいかも」
などと感じてくれたらいいな、と。
そんな思いから今回
Table of Contents
【在宅透析と穿刺】HHDの自己穿刺を言語化し、動作の棚卸しを行う
穿刺前準備
ポイント
- 穿刺部位の位置決め
- 穿刺針の準備
- 駆血ベルトの仮止め
- 穿刺部位消毒
- テープ裁断
- 穿刺部位付近へのテープ貼付
- シャント肢駆血
- 手枕セット
- 穿刺針の保持
- 穿刺針持ち手を手枕で支持
- 穿刺針進入角度の決定
- 穿刺針先端の皮膚アプローチ
1.穿刺部位の位置決め
当日穿刺する位置を決めます。
毎日透析=毎日穿刺
在宅血液透析をやられている患者であれば皆それぞれ
「刺しやすい場所」「刺しにくい場所」「刺したくない場所」
あろうかと思います。ただ
シャントを長持ちさせるためにも
出来るだけ同一箇所を連続で刺したくはありません。
幸いなことに私の場合
現状まだ穿刺できる箇所が複数あるので
前日の穿刺部位以外の場所で
穿刺出来そうな場所を選定します。
自分の中でローテーションのようなものが出来上がってはいるので
当日になって迷うことはあまりないのですが
当日の気分でローテーションから外れることもあります。
ほとんどのケースが
❝体調が優れない❞、❝気分がのらない❞
このような場合は上記でいう「刺しやすい場所」に位置決めしてしまいます。
2.穿刺針の準備
穿刺針本体は保護管に入っています。
保護管のキャップをねじると、開封防止ラベルがミシン目に沿って破れます。
キャップを外して、穿刺針本体を取り出します。
(といっても、実際取り出すのは穿刺直前)
乱雑に取り出してしまうと、針先が保護管内側に触れて
保護管の削り片が針先に付着する可能性があり、注意が必要。
内筒(=金属針)と外筒(=クランピングチューブ)とが合体している構造ですが
保護管から取り出し直後の穿刺針はこの
内筒と外筒とが軽く❝くっついて❞います。
穿刺の際、両手を使える施設スタッフならいざ知らず
自己穿刺する場合は、前もって❝くっつき❞を解消してやって
内筒(=金属針)が外筒(=クランピングチューブ)内を滑らかに動かせる状態にしておくと
あとあと困らないというわけです。
3.駆血ベルトの仮止め
私の場合の駆血箇所は
シャント肢の上腕上部、腋窩やや下の辺り。
「4.穿刺部位消毒」をした後に駆血ベルトを巻こうとすると
折角消毒した箇所を触ってしまう可能性があるので
このタイミングで仮止め(仮巻き)します。
4.穿刺部位消毒
穿刺部位の消毒は念入りに。
私はアルコールで皮膚かぶれしてしまうので
ノンアルのヘキシジンを使用してます。
5.テープ裁断
これは私特有か、と。
処置キット内に入っている医療用テープのサイズは
横幅3㎝弱、縦幅10㎝弱。
アルコール同様、テープかぶれしてしまう私としては
目的を果たしつつも出来るだけ貼付面積を狭くしたい。
そこで、デフォルトサイズのテープを縦に裁断。
(つまり横幅約1㎝の長細い形状にする)
これを使い、自己穿刺後半の
「3.クランピングチューブとシャント肢とをテープ止め」の際
クランピングチューブの二点に貼付しシャント肢と固定します。
強度に関しては、今のところ問題は全くございません。
6.穿刺部位付近へのテープ貼付
これはもしかしたら
私と同じように行っているHHD患者さんもいらっしゃるのでは。
「穿刺の際、皮膚に一定程度張りがある方が、針が皮膚及び血管に刺さりやすい」
と、HHD導入当初から個人的に思っておりました。
施設スタッフの方々は
穿刺針を持っている手の反対側の手、いわば❝余っている手❞で
患者の穿刺部位付近の皮膚を押し引っ張ることで、皮膚に十分な緊張を持たせ穿刺できます。
自己穿刺では手❝余って❞ないので・・・
HHD導入から試行錯誤を繰り返しながら、現在の形
医療用テープ(これは裁断していないデフォルトサイズ)を使って
穿刺部位付近の皮膚を引っ張りながらテープ止めをします。
こうするとかなり皮膚に緊張感を持たせられ、針が刺さりやすい。
より平易に自己穿刺が出来るような補助具があれば良いのでしょうが。
※2021年2月追記👇
7.シャント肢駆血
駆血ベルトも
ただ闇雲に絞めればいい、ってものではないと思います。
駆血ベルトでのシャント肢の絞め具合は
経験で身に着く感覚的な部分があるのかな、と思います。
8.手枕セット
リラックスした、自分にとって穿刺しやすい姿勢
これを追求していった結果
タオルを巻いて作った手枕を用意して
その上に穿刺針を持った手を乗せる、という
現在の形に落ち着きました。
- 穿刺針持ち手が手枕によって支持され安定する
- 持ち手の高さを穿刺部位に合わせられる
というのが、個人的には気に入っております。
タオルなので
穿刺に手こずり、冷や汗や手汗が酷いときは
すぐ拭けます( ̄ー ̄)ニヤリ
9.穿刺針の保持
穿刺針保持の仕方は、人それぞれかと思います。
私の場合は
親指腹と中指腹でクランピングチューブ中央付近を摘み
人差し指を止血栓付近(穿刺針のお尻部分)に添えます。
薬指・小指は完全に遊んでいるわけではありませんが
クランピングチューブ前部に軽く添える程度。
ゴルフのスイングでも(突然の例え話失礼)
左腕リードの人もいれば、右腕リードの方もいらっしゃるように
自己穿刺をされる方それぞれに
穿刺する際、針の動きをリードする「指」があると思います。
私の場合は、人差し指がそれになります。
後述する穿刺前半・後半の要所で
人差し指の感覚が重要になります。
10.穿刺針持ち手を手枕で支持
「8.手枕セット」参照下さい。
11.穿刺針進入角度の決定
穿刺部位は
- 自分の目線から遠い前腕部の場合もあれば
- 自分の目線近くの上腕部の場合も
- 血管の走行が正中の場合もあれば
- 血管の走行がやや内向き、やや外向きの場合も、あります。
穿刺針が皮膚に進入する角度そのものは毎回ほぼ同じなのでしょうが
穿刺部位の見え方、針の持ち手の位置によって
穿刺針の進入角度を同じにすることが困難な場合があります。
この辺りもやはり、ある程度の経験は必要になるのかな、と。
12.穿刺針先端の皮膚アプローチ
いよいよ意を決して針を皮膚に刺します。
スーッと刺しにいければいいのですが
躊躇したり、気持ちを落ち着かせるため
皮膚ギリギリのところで一旦立ち止まることも、多々あります。
慎重であることは、素人が医療行為する上では悪いことではないので
これはこれで自分らしさかな、と思ってます。
穿刺前半
ポイント
- 金属針穿刺
- 血液逆流確認
- 針全体のフラット化
- カニューラ先端の押し込み
1.金属針穿刺
このフェーズでは
針のお尻部分に添えた人差し指
クランピングチューブ中央付近を摘まむ親指腹・中指腹
力の入れ具合は、三指ほぼ均等。
穿刺前準備「6.穿刺部位付近へのテープ貼付」で
皮膚を一定程度張りがある状態にはしておりますが
それでも不十分な場合、私は
小指の外側を使って、穿刺部位付近の皮膚を引っ張ります。
昔はどうしても躊躇して
針の進入スピードが遅く、結果痛い
となることが多かったのですが
慣れてくると
針をスーッと迎え入れることが出来てきます。
結局痛いは痛いですけど。
2.血液逆流確認
金属針が血管壁を通った感覚はあまり湧かないので
穿刺針把持部(針の後ろ)で血液の逆流を確認、つまり
金属針が血管壁を通ったことを確認します。
3.針全体のフラット化
前述したように、ここでは
人差し指が穿刺針全体の動きをリードします。
血管の走行に沿ってカニューラを押し込むため
針全体をほぼフラットに寝かしたいのですが、私の場合
クランピングチューブ中央付近を保持している親指・中指がちょっと邪魔になるので
完全にクランピングチューブから放すことはないですが、添える程度に。
その代わり、意識の中心を
止血栓付近(穿刺針のお尻部分)に添えていた人差し指に集中します。
親指と中指の握りを緩めたことによりやや不安定となった針全体を
人差し指で穿刺針のお尻部分をごく僅か押し気味(針先が外れないように)にして
(針先が❝支点❞、人差し指が❝力点❞といったところか)
針全体をほぼフラットまで倒します。
4.カニューラ先端の押し込み
針全体がほぼフラットまで倒せたら
親指・中指の意識を元に戻します。理由は
穿刺針を刺し込む力を制御するため。
カニューラ先端が血管壁を破るまでは力をこめますが
血管壁を破った瞬間、押し込む力を制御しないと
反対側の血管壁をも突き破る危険があります。
この時点ではまだ、金属針が先導しているので。
この微妙なコントロールは、人差し指のみでは難しい。
カニューラ先端が血管内に入ったことは
持ち手の指先と、シャント肢の中から伝わる感覚で感じつつ
血液の逆流を目視することでも確認できます。
この時点で
これまで先導していた金属針はお役御免、少し抜いてあげます。
ここの手技には、いくつかの❝流派❞があるようです。
一つは
このタイミングでクランピングチューブをテープ止めし
把持部を挟み、金属針を1~2㎝抜くやり方。
私がやっている❝流派❞は
クランピングチューブのテープ止めはせず
親指腹と薬指腹でクランピングチューブ中央付近を摘みつつ
人差し指側部と中指側部で把持部を挟み
関節を伸展させることで金属針を1~2㎝抜く。
多分、HHD導入当初は不慣れな部分もあろうかと思うので
前者の方が安心安全か、と思います。
後者はややテクニカルかもしれませんね。
穿刺後半
ポイント
- 更なるカニューラ押し込み
- クランピングチューブとシャント肢とをテープ止め
- 金属針抜き取り
1.更なるカニューラ押し込み
金属針先端はもう引っ込んでいるので
幾らか安心してカニューラを血管内に更に押し込みます。
私の場合、この時点での押し込み方はケースバイケース。
クランピングチューブのお尻部分を人差し指で押す時もあれば
クランピングチューブ中央付近を親指と人差し指で摘まんで押す時もあります。
2.クランピングチューブとシャント肢とをテープ仮止め
テープ(カットした細長テープ)で
クランピングチューブとシャント肢を仮止めします。
仮である理由は
金属針を完全に抜き取る際、カニューラが抜けないようにするため。
横幅3㎝弱のデフォルトサイズでテープ止めすれば
カニューラが抜ける心配などする必要はないのでしょうが
半分サイズなので、注意しながら金属針を抜いていきます。
※後の、クランピングチューブと血液回路とを繋ぐ工程で
もう一本細切りテープをつかって二点止め
しっかりクランピングチューブとシャント肢は固定します。
3.金属針抜き取り
(重複しますが)
カニューラが抜けないよう注意しながら
金属針を完全に抜き取ります。
脱血側、返血側二か所の穿刺
長々と書き綴りました上記一連の動作を
脱血側、返血側の順番で行います。
まとめ
在宅血液透析導入を検討中の方
俄然やる気出てきましたか?余計不安にさせてしまいましたか?
現在HHDをやられている方
私の手技、どうでしたか?
今ではすっかり当たり前のようにやっている手技でも
このように細かく動作を分解してみると
結構繊細なことをやっているな、と我ながら思います。
時々、考えると不安になることがあります、それは
もしシャントが閉塞、VA再造設も不可能となったら、と。
おそらく、現在とは逆の腕にVAを造設することが考えられますが
そうなった場合、現在の利き腕のような巧緻性を
逆の腕で再現できるだろうか?
再現できないとなると、HHD継続は困難となるのだろうか?
たまに逆腕(左手)でシミュレーションしてみるのですが
一筋縄にはいきませんね。
鉗子一つとっても、左腕じゃ上手く扱えませんから。
とはいえ、準備できないわけではありません。
逆手でも自己穿刺が可能な補助具開発に僅かな望みを託しつつ
自分で考え得る準備をしよう。
最初は出来なかった左手での歯磨きも
今では器用にこなせるようになるのだから。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。