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腎臓移植

【腎移植と倫理】前腎移植患者で現在HHD患者兼献腎移植待機者である私が"腎臓交換"について考えてみる※2022年5月改訂

dna,puzzle

組み直し腎臓交換(Paired Kidney Exchange :PKE)

素人には少々ショッキングな言葉を初めて目にしたのは

2012年にノーベル経済学賞を受賞したアルビン・E・ロスの著作

Who Gets What」 を読んだ時。

アルビン・E・ロス氏は

「安定配分の理論とマーケットデザインの実践」に関する功績がたたえられ

ノーベル経済学賞を受けた方。

同著では、 そのマーケットデザインの実践の主たる成果として

組み直し腎臓交換(Paired Kidney Exchange :PKE)のシステム的確立が挙げられています。

私が同著を、"経済学的視点"で読み解くことは難しいですが💦

腎臓交換について考えるきっかけにはなりました。

私自身の生体腎移植では、 レシピエントである私とドナーである母とが

医学的適応性に問題がなかったので手術を行うことができましたが

当事者間における医学的適応性の問題により臓器の提供を諦め

当事者間の移植手術が出来ないことも少なくないと聞きます。

さて、では「組み直し腎臓交換」とは何か?

生体腎移植を希望する組合せにおいて腎移植の医学的適応性がない場合、同様の問題を抱える組合せを多数集め、それらの組み直しを試みることで、移植の可能性を高める制度である。

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

医学的適応性に問題があるドナー・レシピエントの集合体から

適切な組み合わせをマッチングし手術を行う

そんなことが可能なのだろうか?

そもそも倫理的に問題はないのだろうか?

このような疑問から、素人なりに一度ちゃんと勉強してみようと思ったわけです。

その上で参照させて頂いた文献は、下記の通り。

注意!!

今回は、イチ患者の「勉強ブログ」的意味合いが強いです。

体外的には、単なる"情報出し"の域を出ません。

本編では多少、現在の私の立場として感じる点、つまり

前生体腎移植患者であり、現在、在宅血液透析患者兼献腎移植待機者として

思うこと、感じることを記述する場面はございます。

しかしながら、もちろん私は専門家ではありません。ただのイチ患者、医の素人。

したがって、基本スタンスは…

腎移植領域で

前生体腎移植患者であり、現在、在宅血液透析患者兼献腎移植待機者であるイチ患者が

「今回、こんなことに関心を持ち、向学のために上記文献を読んでみました。

関心のある方は、是非!!」

程度のもの。この点、誤解無きように。

加えて、今回ご紹介する「組み直し腎臓交換」という仕組みは

生体腎移植を希望する組合せにおいて腎移植の医学的適応性がない場合、同様の問題を抱える組合せを多数集め、それらの組み直しを試みることで、移植の可能性を高める制度である。

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

"生体腎移植を希望する組合せにおいて"とあるように

腎移植領域の中でも(一部例外を除いて)「生体腎移植」に関与する仕組みかと。

この点

「献腎移植」を待つ現在の私には、直接関係のないトピックスなのかもしれませんが

(後述しますが)PKEの利点として

"献腎待機者数の減少に繋がる可能性"を挙げていることから

間接的には関係するかなと。

その意味でも私にとって、まさに"向学のため"に学びたい内容なのです。

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前腎移植患者で現在HHD患者兼献腎移植待機者である私が"腎臓交換"について考えてみる

はじめに

今回、参照した文献の"特色"をお話しておきます。

参照論文相互の位置づけ

先ず、二つの論文の位置づけとしては…

上記文献を下記文献

参考文献

ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望(日本生命倫理学会 学会誌28巻 (2018)1号)

が一部補完する、といったところか。

本稿ではこの目的のもと、包括的なシステマティック・レビューを行い、神馬論文を補いつつそこで指摘されていなかった利点や問題点もいくつか提示したい。

(引用元:ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望)

※"神馬論文"…『組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察』の論者が神馬幸一氏。

『ドナー交換腎移植に関する日本移植学会の見解』との関係

2004年6月11日に日本移植学会の会告

『ドナー交換腎移植に関する日本移植学会の見解』

が出されております。この会告について上記2論文は

"より多くの問題群を考慮する必要がある"

とのスタンスなようです。

PKEの問題は日本移植学会が前提としているよりも複雑で多様でありうる。日本におけるPKEの展望を考えるうえでは、少なくとも本稿で示した問題群を考慮する必要があるだろう。

(引用元:ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望)

では、組み直し腎臓交換について、日本移植学会の見解は?

これについては、2論文を一定程度ご紹介した後に

明示した方が宜しいかと思いますので、後程。

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組み直し腎臓交換(Paired Kidney Exchange :PKE)とは

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生体腎移植を希望する組合せにおいて腎移植の医学的適応性がない場合、同様の問題を抱える組合せを多数集め、それらの組み直しを試みることで、移植の可能性を高める制度である。

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

なぜ、組み直し腎臓交換が"移植の可能性を高める"のか?

生体腎移植における多くの事例では、他者に無償で腎臓提供をしたい場合であっても、当事者間における医学的適応性の問題により提供を諦めなければならないことがある。しかし、 この臓器マッチング体制により実施される組み直し腎臓交換は、その問題を解消する。すなわち、この仕組みは、医学的適応性に関して問題を有する複数の腎移植当事者を組み換え直すというものである。

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

組み合わせ(マッチング)の手法として

参考文献『組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察』には

  • 移植不適応当事者交換型
  • 移植適応当事者関与型
  • 待機順位繰上げ型
  • 利他的提供者関与型連鎖型

というものがあります。 それぞれについて、簡単に説明します。

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移植不適応当事者交換型

恐らく、こういうことかと…

例えば、ドナー・レシピエント、当事者間における医学的適応性に問題のある二組がいて

Aさん(ドナー)aさん(レシピエント)

Bさん(ドナー)bさん(レシピエント)

その二組同士を、所謂"互恵的"に組み直すというもの

Aさん(ドナー)bさん(レシピエント)

Bさん(ドナー)aさん(レシピエント)

 これが三組(登場人物6人)の場合もあるそうです。

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移植適応当事者関与型(Altruistic Unbalanced Paired Kidney Exchage:AUPKE)

移植不適応当事者交換型の応用編?

現在では、ドナー・レシピエントが血液型不適合でも生体腎移植は行われると聞きます。

この、本来組み直し不要の当事者をあえて腎臓交換に関与させることで

血液型の一致する者同士がマッチングされ

より良好な医学的成果が見込まれる可能性がある、とするもの。

このAUPKEに関しては、いくつかの問題が指摘されているようで。

個人的に気になったものを一つあげておきます。

移植を行う医療者が適合ペアの意向よりもマッチング率向上を追求してしまうことへの懸念

(引用元:ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望)

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待機順位繰上げ型

この場合、先ず、移植不適応の組における生体提供者が代替的に死体腎移植の待機者に対して腎臓提供することになる。その腎臓提供を条件にして、 この不適応の組における受容者は、互恵的に死体腎移植待機者としての順位を繰り上げてもらえるという手法

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

例えば、 Aさん(ドナー)ーaさん(レシピエント) がいるとして

残念ながら医学的に不適合であるとする。

待機順位繰上げ型というのは

Aさん(ドナー)が献腎移植を待っている別のレシピエントに腎臓を提供することで

aさん(レシピエント)が献腎移植待機者としての順位を繰り上げてもらえるという手法だそうで。

これにより

移植不適応の組における受容者に対して、待機時間の短縮という利益がもたらされる。それと同時に、提供者における利他的な行動により移植実施が促進される効果も期待できる。

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

一読して直観的に

「これは、駄目でしょ?」

と感じた方多いかと思われます。

事実、待機順位繰上げ型で交換されるのは

"腎臓と腎臓ではなく、腎臓と待機順位という異質なものである"

との問題点が指摘されております。

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利他的提供者関与型連鎖型

利他的提供者関与型連鎖型では、第三者である

利他的な提供者(altruistic kidney donor)という登場人物が存在します。

"利他"とは…

他人に利益となるように図ること。自分のことよりも他人の幸福を願うこと

(引用元:goo国語辞書)

臓器の利他的提供者

下記動画のように、海外では"あり得る"話なようですが…

(参照元:Fresenius Medical Care )

親族以外からの腎臓提供を原則認めていない日本では、実現の芽はなさそう。

  • 閉鎖式連鎖(ドミノ移植)
  • 開放式連鎖

とあるそうですが、個人的に気になる記述としては

「提供された腎臓が、"死体移植"に流入するか否か」という点。

まず、閉鎖式連鎖(ドミノ移植)

この場合、先ず、第三者である利他的な提供者が移植不適応の組における受容者に対し、腎臓を与える。その交換として、移植不適応の組における提供者は、死体移植待機者に対し、腎臓を提供する。すなわち、このように拡大化された連鎖は、その末端において、死体移植に流入するかたちで完結されるという手法である。

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

一方、開放式連鎖

この場合、腎臓交換の連鎖は「橋渡しの提供者(bridgedonor:BD)」が介在することで、将来的に実施される腎臓交換の連鎖に接続される。すなわち、このように拡大化された連鎖は、その末端がなく、完結されずに開放されているという手法である。

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

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腎臓交換に関する日本移植学会の見解

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さて、冒頭でペンディングしておりました

組み直し腎臓交換について、日本移植学会の見解は?

という件。

2003年に九州大学で腎臓交換が実施されたことを受けて

2004年6月11日に日本移植学会が出した会告

『ドナー交換腎移植に関する日本移植学会の見解』

には、こうあります。※途中、中略含みます

近年における移植医療技術の進歩によりこれらの条件における腎移植の成績が向上しつつあり、多くの移植専門医はドナーを交換して移植を実施しなければならないような絶対的な医学的必要性は決して大きいものではないと考えている。(中略)

ドナー交換腎移植においては、ドナーが直接自分の近親患者に提供するのではなく、また2つの移植の結果が同等であるという保証がない条件下で行うことから、多くの倫理的問題が存在すると認識せざるをえない。(中略)

ドナー交換腎移植は親族間で行われるものでない生体臓器移植ではあるが、それぞれの親族のために自分の臓器を提供するという意思に基づくものであり、親族に準じる関係における生体臓器の提供の余地を認める現在の日本移植学会倫理指針に反するものではない。

しかし、ドナー交換腎移植は医学的・倫理的に大きな問題を含むものであり、個別の事例として各施設の倫理審査のもとに行われるべきものである。したがって、ドナー交換ネットワークなどの「社会的なシステム」によりドナー交換腎移植を推進すべきものではない。

(引用元:一般社団法人 日本移植学会)

整理すると…基本、否定的な立場

参考文献上の表現をお借りすれば

"医学的必要性をほとんど認めていない"。

同学会は腎臓交換を 「少数の国と施設において実施されている医療」とした上で、

  • ドナーが(腎臓を)直接自分の近親患者に提供するのではないこと
  • 2つの移植の結果が同等であるという保証がない条件下で行うこと

といった倫理的諸問題をあげています。 そして

ドナー交換ネットワークなどの「社会的なシステム」によりドナー交換腎移植を推進すべきものではない

との見解を示しています。

ただ、これに対し、今回ご紹介の参考文献では

世界的に見ればPKEの実践は複雑化・多様化しており、その数も増えつつある。この流れに日本が今後飲み込まれないとは断言できない。

(引用元:ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望)

献腎数が著しく不足している日本では、献腎待機者を減少させることも喫緊の課題である。これらを考慮すると、PKEの医学的・社会的必要性は必ずしも小さいとは言えないように思われる。

(引用元:ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望)

PKEの問題は日本移植学会が前提としているよりも複雑で多様でありうる。日本におけるPKEの展望を考えるうえでは、少なくとも本稿で示した問題群を考慮する必要があるだろう。

(引用元:ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望)

としているわけです。

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組み直し腎臓交換の利点

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医学的利点

たしかに、文献内に記述はございましたが

その名の通り"医学的"利点を、医の素人が読んで

「なるほど!」と納得するには難しく

ここで要点をご紹介するには、正直無理があります。

ご興味お持ちの方は、是非原文をお読み頂きたいと思います。

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ドナー側の心理面での利点

PKEへの参加は、ドナー側のレシピエントのためにできるだけのことをしたという利他心や欲求を充足するという主張がある。

(引用元:ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望)

提供者の交換を通して、受容者は、臓器提供という利益を得ることになる。これは、有償提供による臓器売買の場合と異なり、提供者における無償提供の意思を結び付ける画期的な発想であるとも評価できる。

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

腎臓交換へ参加することで、 ドナー側の

レシピエントのためにできるだけのことをしたという利他心や欲求を充足する

という主張があるらしい。

しかし、これについては、個人的に大いに疑問。

実際、私のドナーであった実母に腎臓交換についての意見を聞いたところ

かなり難色を示しました。

間接的に息子を救うことになることは

理屈として理解できても、 おいそれとはいかない、と。

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献腎待機者数の減少に繋がる可能性

生着年数の長い生体腎の成績を最適化することが、長期的に見て献腎待機者数を減らすことになるという予想がある。この予想によれば、PKEによる移植成績の改善は再移植が必要となる患者数を減らすことになるため、長期的に見れば、再移植希望者と献腎移植待機者の間での献腎を奪い合うという事態を回避することに繋がる。

(引用元:ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望)

上記でいうところの

私は、「再移植希望者」ということになろうか。

単純に、今の自分は「献腎移植待機者」であるとの認識でしたが

「再移植希望者」と(腎移植未実施の意を包含した)「献腎移植待機者」とを

分けて考えるという発想が、恥ずかしながらございませんでした。

"献腎を奪い合う"

表現はドラスチックですが、それが現実なようです。

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組み直し腎臓交換の問題点

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公平性に関する問題(マッチングに伴う問題)

待機順位繰上げ型及び利他的提供者関与型のPKEにおいては、現実問題として、血液型不一致・不適合の場合における移植が推進されない限り、全ての血液型の者に提供可能なO型の腎臓が優先的にPKEへと配分され、非O型の腎臓は、主として死体腎移植待機者に配分されるという傾向が強まる。そのことから、死体腎移植待機者におけるO型の腎臓不足が生じ、その待機時間に悪影響が生じる可能性が指摘されている。

また、開放式連鎖のPKEは、閉鎖式連鎖の場合とは異なり、死体提供腎移植を関与させることなく、永続的な生体腎移植の運用を可能にすることが特徴とされている。この構想においても、死体腎移植待機者から、より適合率の高いPKEへとO型の腎臓が奪われることになる。

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

0型の腎臓はすべての血液型のレシピエントに提供可能だそうで

組み直し腎臓交換の仕組み内では、優先的に配分される。

その結果、全体のパイで考えると

対照的に0型の腎臓を待つ献腎移植待機者にとっては

その不足感が生じる、という。

(「0型の腎臓における流用現象」 と言われているそうです)

O型の私としては、少々聞き捨てならない内容です…

また

PKE参加者が交換で得られる

「臓器の質」

に関する記述ありました。

例えば高齢のドナーからの移植を避けるために、マッチング後に交換を拒否する参加者もいるだろう。実際、移植プログラムの実施者に対してPKEの問題点を尋ねた調査では、交換する二つの臓器の質に差異が存在し不平等な交換になることへの懸念が多く見られた。

(引用元:ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望)

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任意性に関する問題

BDにおける撤回権の問題

先にご紹介した「利他的提供者関与型連鎖型(開放式連鎖)」で登場した

橋渡しの提供者(bridgedonor:BD)

彼等の「撤回権」の問題を指摘しておりました。

ただ、「利他的提供者関与型連鎖型」は、その名の通り

利他的な提供者(altruistic kidney donor)

という登場人物の存在を前提とした構想。

親族以外からの腎臓提供を原則認めていない日本では、非現実的と思われる仕組み故

ここでは深入りしません。

一応、当該箇所をご紹介すると…

開放式連鎖のPKEによれば、全当事者における移植術の同時実施は、必要とされない。そのことから、将来的に実施される交換連鎖の端緒となるBDには、その連鎖再開に至るまで、相当程度の待機期間が付与されることになる。この待機期間の付与は、BDにおける臓器提供撤回の見込みを増大化させるものである。そして、このBDによる撤回権の行使により、開放式連鎖は、途中で遮断されるというリスクが生じる。

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

ご興味お持ちの方は、是非原文をお読み頂きたいと思います。

社会心理的圧力の問題

これも、利他的な提供者(altruistic kidney donor)に関する問題。

「BDにおける撤回権の問題」同様、日本では非現実的と思われる仕組み故

ここでは深入りしません。

一応、当該箇所をご紹介すると…

マスメディアが個々のPKEを美談として採り挙げることに感化され、利他的な提供者の増加が名誉欲により誘引されることは、移植医療の任意性 という観点から倫理的懸念を生じさせるという指摘がある。

潜在的臓器提供者にとって、医学的不適応性という理由は、その真意として、不本意な臓器提供を回避するための口実にも成りうる。しかし、PKEという仕組みは、その口実を排除してしまう構想でもある。このことから、PKEの導入により、潜在的臓器提供者は、更なる大きな心理的圧力の下へと置かれるように思われる。

(引用元:組み直し腎臓交換の制度設計に関する生命倫理学的考察)

"マスメディアが美談として取り上げる"というのは

なにもPKEに限ったことではない気がします。

色々言いたいことはありますが

今回のテーマからはズレるので、ここでは割愛。

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ロジスティクスに関する問題

多施設参加型のPKEでは、参加者か臓器のいずれかが移動しなければなりません。

参加者の移動に関しては…

  • 患者が信頼する医療チームの医療やケアを受けられない
  • 病院によって手技が異なる
  • 患者の移動負担等への懸念

が挙げられていました。

臓器の移動(輸送)に関しては…

「冷虚血時間」(摘出~固定までの時間)

の延長による臓器へのダメージが懸念される、との指摘あり。

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匿名性に関する問題

例えば、 腎臓交換による二組の移植結果が不幸にも同等でなかった場合

相手の結果を知ることは望ましくない心理的効果をもたらしうる

しかし、それが同一施設内で腎臓交換が行われたとすると

匿名性の維持は困難である、というもの。

「匿名性に関する問題」と先述の「ロジスティクスに関する問題」と絡めた

匿名性維持の重要性と輸送による影響の大きさを比較衡量する必要がある。

(引用元:ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望)

との記述もありました。

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経済的動機と共有資源化の問題

個人的には

利他的な提供者(altruistic kidney donor)に関する話以上に

日本に住んでる以上「ピン」とこない話ですが…一応ご紹介。

金銭的要因で移植が困難な発展途上国の患者に対し、アメリカで実施されるPKEへの参加と引き換えに、移植やその後の管理に伴う費用・支援を提供するというプログラムも存在する。

そこでは、PKE参加への経済的インセンティブが促される可能性は否定できない。また、PKEにおいては、ドナーの腎臓はもはやドナーの私有物もしくはドナー・レシピエント・医療者の間で私的に扱われるものではなく、PKE参加者間の共有資源として扱われるようになるという指摘もある。

(引用元:ドナー交換腎移植の現状と日本におけるその展望)

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まとめ

thanks,

一度で理解するには少々難解なテーマです。

また、「何が正解か?」を

特に医の素人が議論しずらいテーマかと。なぜなら

そこに倫理的問題が大きく介在するから。

臓器移植には 「利他の心」 が

少なくとも基礎にあるという点は理解してます。

利他主義を大雑把に理解すると

自己の利益よりも、他者の利益を優先する考え方

ということになるかと思いますが、 この考え方は

倫理観のみならず、宗教観とも密接な関りがあると思われます。

結果、そこには必然的に、日本と欧米といった国家間の文化差異はもちろん

同じ日本人とて、倫理観・宗教観の違いは生じ

一つの結論を導き出すことは非常に難しいかと。

イチ患者としては

腎臓交換の制度化そのものの動向は、静観するしかない。

"医学的・技術的"問題については医療者が検討する案件。

しかしながら、"倫理的"問題については

私のようなイチ患者にも、考える資格はあるのでは。

特に

前生体腎移植患者現在在宅血液透析患者兼献腎移植待機者である立場としては

「組み直し腎臓交換」というテーマを機に

倫理観や宗教観、死生観について、もっと掘り下げて勉強してみたくなりました。

今回

医の素人(私)が、医の専門家向けの文献を読み興味を持ったものを

同じく医の素人の方々へ向けてご紹介する…

所謂"書評系ユーチューバー"の方々が「本」を紹介するように

「学会誌」掲載論文をご紹介してみました。

今回の"情報出し"が

皆様、特にCKD患者様方の"興味をそそる"ものであれば、幸い。

「第2回」は、果たしてあるのかどうか…

今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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