2018年末の透析患者数は、339,841人
このうち、在宅血液透析患者は、
たったの、720人。
(参考文献:わが国の慢性透析療法の現況 (2018年12月31日現在))
これを、
❝透析未経験で在宅血液透析を導入した患者数❞
としたら、その数はさらに少なくなるでしょう。
私の場合、
腎臓保存期での生体腎移植であったため、術前に長く苦しい透析生活を送っておりません。
移植腎廃絶後に、VA(バスキュラーアクセス)を初めて造設しました。
よって、自己穿刺する静脈は、言わばまっさらな状態。
そのことから私は、
まっさらな自分の血管がどう変化しているか、
自己穿刺をすることで、文字通り自分の感覚として分かるわけです。
私見ですが、このことを体験できるのは、極めて稀だ、と。
そこで今回は、
在宅血液透析8年目=血液透析8年目の私が、
その間に体験した、自己穿刺時に血管から伝わる感覚の変遷を、
【在宅透析と穿刺】HHDの自己穿刺時に血管から伝わる感覚の変遷
血管の張り
もともと静脈は、その名の通り静かな血液が流れることを想定しているので、
その血管壁は動脈に比べて薄い。
そのため、
VA造設したての静脈は、想定外の動脈血が流入することでその壁が圧により押され、
やや危うい(個人的な感想)状態。
金属針が触れれば、簡単に壁を貫通することが可能。
半面、その危うさは、思わぬ事態を招くことも。
初めてVA造設手術を行った二日後の穿刺の際
(注:この時はまだ透析導入時期で入院中、つまり自己穿刺は行っておりません)
内出血をおこし、前腕全体が見る見るうちに腫れてきました。
動脈血の圧に、まだ発達しきれていない静脈壁が耐えきれず、穿刺部位から血液が漏れ出たようで。
その時は穿刺ミスと思い、当該技師を恨みましたが、後日主治医に、
VA造設したての静脈の壁が十分発達していないから、
誰が穿刺しても起こりうる旨聞かされ、しぶしぶ納得したこと覚えてます。
約一週間の透析導入入院後、場所を在宅血液透析管理病院に移しトレーニング開始。
約2か月後、在宅での自己穿刺、在宅での血液透析が始まりましたが、
まだまだシャント肢の静脈壁の発達は未熟なため、
自己穿刺した際、
金属針先端が血管をとらえる時はもちろん、
カニューラ先端が血管壁を突き抜ける感覚も、あまり伝わってきません。
穿刺針を持つ手にも、シャント肢の内側からも、です。
血管の太さ
在宅血液透析初期の頃は、
自己穿刺そのものに対する緊張で、どこを刺してもその感覚の差異などに気が回りません。
痛いか、痛くないかだけ。
どこが刺しやすいかというのが、徐々に分かってくるわけですが、それは、
刺しやすい所=痛くないところ、であって、
刺しやすい所=血管が発達しているところ
というわけではありません。
(実際は、超初期に起きた内出血のようなことは起きなくなったので、
静脈壁も最低限の厚さにはなっていたのでしょうが。)
それから少しずつ、血管が発達してくるのが分かってきます。
どうしても吻合部に近い血管が先行して太くなってくるので、
痛みの程度で決めていた穿刺部位も、吻合部に近い前腕やや末梢側
(もちろん吻合部から5㎝以上は距離をとります)
の部位が穿刺部位のファーストチョイスとなることが多くなりました。
太いということは、その内径が大きいということなので、
金属張りを押し進めることに少し余裕が出来てきますが、
依然として、自己穿刺した際、
金属針先端が血管をとらえた時はもちろん、
外管であるプラスチック針が血管壁を突き抜ける感覚も、あまり伝わってきません。
穿刺針を持つ手にも、シャント肢の内側からも、です。
血管の走行
穿刺が続くと、当然その穿刺痕ができてきます。
穿刺痕は血管の走行に沿ってできていきますので、
ほぼ真っ直ぐにマーキングされた穿刺痕は、穿刺部位のガイド役になったりします。
(注:まだこの頃は血管の蛇行はおきておりません)
在宅血液透析経過2~3年の時期、今思うとこの頃が、
自己穿刺のテクニカルな面では一番イージーだった時期だったのではないでしょうか。
ただそれは、
今現在持ち合わせている穿刺技術(経験による研ぎ澄まされた感覚)があれば、ということ。
当時はまだ、
手技そのものもおぼつかいない面があり、
穿刺の際に伝わる感覚などもまだ研ぎ澄まされておらず、
実際の自己穿刺がイージーだったわけではありません。
血管の蛇行
前腕、上腕含め、血管の走行がほぼ真っ直ぐであった初期に比べ、
時間の経過とともに血管の走行がズレてきます。
穿刺痕がそれを教えてくれます。
それまでのように穿刺痕をガイド役にして穿刺すると失敗、
つまりファーストコンタクトで金属針が血管を捉えられなくなってきました。
毎回、血管の張りやスリルの有無などから
慎重に新たな穿刺部位を選んで穿刺することになります。
それでもまだ、走行がまっすぐであれば、あまり問題ではありません。
さらに時間が経過すると、その走行が所々で蛇行してきます。
蛇行した部分はとりあえず穿刺を避けるので、少しずつ穿刺箇所が減ってきます。
蛇行する血管を自己穿刺するのは非常に難しい。
施設透析の看護師や技師さんは穿刺の際、当然両手を使えます。
針を持っていない手で、蛇行する部位を引っ張ったりしながら、走行を真っ直ぐにして穿刺できます。
が、自己穿刺ではこうはいきません。
色々試行錯誤するわけです。
シャント肢を内転したり外転したりして、
少しでも血管の走行が真っ直ぐに補正されるポジションを模索します。
医療用テープで皮膚を引っ張って走行を補正する、なんてこともしました。
そういうことを繰り返し行っていくうちに、蛇行した血管にも穿刺できるようになるんですね。
でも、基本的にはあまりチャレンジングなことはしないようにしています。
ただ、こういった苦難を経験することで、
自己穿刺に必要な感覚がより研ぎ澄まされてきます。
- 金属針が血管壁をとらえた瞬間
- カニューラ先端が血管壁を突きぬける瞬間
- カニューラ先端が血管内の弁に触れた瞬間
これら瞬間瞬間の感覚を、
自分でキャッチできるようになっていきます。
瘤
透析年数が長くなると、シャント肢血管の所々に瘤が形成されてきます。
今にも破裂しそうなぐらい腫れる場合があるらしいですが、
幸い私の場合はまだ透析歴でいえば❝ひよっこ❞なので、そこまでの大きさではありません。
とはいえ、、初期の頃には見られなかった瘤状のものが
私のシャント肢にも所々に見られるようになりました。
瘤内は血液が乱流していて、脱血できなくはないのでしょうけど、
破裂の恐れがあるので、瘤の頂上付近への穿刺は行いません。
が、瘤の麓から穿刺することはあります。
ただ、この瘤の麓付近の血管壁は、非常に厚い。
血管壁の厚さについては、事項へ。
血管壁の厚さ
血管壁の厚さは、ここ最近感じるようになりました。
カニューラを血管内に押し入れる際、
これまでにはない抵抗を感じるようになりました。
初期にこのレベルの抵抗を感じたら、
おそらく挿入角度が間違っていていると判断して、針を押し進めることはなかったと思います。
今では、針の挿入角度が合っていていても抵抗を感じるので、
その判断は少々厄介です。
ここではまさに経験がものをいいます。
トライ&エラーを繰り返して、
これはいける、これは無理との判断が出来るようになります。
上記で述べた、瘤の麓への穿刺では、
血管壁の厚さを特に強く感じます。
時に、金属針が血管壁をとらえる時も、
いくらか抵抗感があります。
カニューラ先端を血管壁に押し込む際は、
なかなか壁を突き抜けることができず、
血管が針の進行方向にズレ込む感覚すらあります。
そこまでして、瘤の麓に穿刺しなければいけない必要性も、いまはないので、
(他にまだ穿刺できる箇所があるので)
最近では刺す頻度は減らしてます。
まとめ
施設血液透析(CHD)でも在宅血液透析(HHD)でも
穿刺する側からすれば、
血管壁はある程度の強さと厚さがあった方が、
針を刺し込む際の感覚が腕に伝わりやすい。
一方で、
「少しずつ新たな穿刺箇所を開発しないとな」
と、最近思っております。
太い血管は穿刺しやすい
→穿刺頻度が多くなる
→瘤ができやすい
→結果、その部位が穿刺出来なくなる・・・
自分の場合、開発区域の有力候補は尺骨側、つまり
- 前腕部の内側
- 上腕部の内側
といったところか。
しかし、
前腕部の内側は、穿刺角度が自己穿刺するには難しい。
上腕部の内側は、痛点が密集してるのか、非常に痛い。動脈にも近いらしく、リスクもある。
悩ましいところです。
自己穿刺は、実に奥が深い・・・。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。