透析患者は、多くの場合月に一度(患者による?)
血液検査を行い、医師からその結果のフィードバックを受ける。
私の独断と偏見で、気になる検査項目を挙げるとすると…
[su_note note_color="#18f7ec"]
リン(P)、カリウム(K)、アルブミン(ALB)、ヘモグロビン(Hb)
PTH-インタクト、β2ミクログロブリン
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PTHが高値にならぬよう「ロカルトロール」が処方されていたのだが
前回の外来で「オルケディア」を処方された。
最初はてっきり
「ロカルトロール」に"変えて"「オルケディア」を服用するものと理解したが
実際は、両者の併用だった。
その時、私の頭の中で
副甲状腺ホルモンであるPTHをコントロールする薬が「ロカルトロール」
という、自分なりに構築してきた知識体系が崩れた。
そして
腎性副甲状腺機能亢進症(RHPT)の発症機序に関わってくる"登場人物"の多さに驚き
その多さゆえ、それぞれの関係性が頭の中で混乱をきたした。
「これは一度、ちゃんと勉強しよう!」
素人が、どこまで「腎性副甲状腺機能亢進症(RHPT)の発症機序」について理解できるか。
"複数の医療従事者向け資料を読み漁り、自分なりにかみ砕き
同じ透析患者の方々が「なるほど!」と思っていただけるような形でまとめる"
これは、一つのチャレンジであります!
[su_box title="参考文献一覧" style="soft" box_color="#e3e8e3"]
- 腎性副甲状腺機能亢進症の発症機序と臨床症状:今、何が問題か?(日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 第34巻第3号)
- 慢性腎臓病とビタミンD(日本腎臓学会誌 2014年56巻8号)
- 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン 第9章 保存期CKD-MBD(日本透析医学会雑誌 2012年45巻4号)
- PTHの管理(日本腎臓学会誌2018年60巻2号)
- 薬物相互作用の少ない二次性副甲状腺機能亢進症治療薬(日経メディカル)
【透析患者とリン/カルシウム】腎性副甲状腺機能亢進症(RHPT)について"独学"してみる!
腎性副甲状腺機能亢進症(RHPT)とは
二次性副甲状腺機能亢進症は、腎不全患者における最も重要な合併症の一つであり、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)の分泌過剰と副甲状腺過形成を特徴とする。
二次性副甲状腺機能亢進症の進展は、高回転型骨病変の原因となるだけでなく、ミネラル代謝異常を介して血管石灰化や生命予後に重大な影響を及ぼす。
概念は分かった。
「これが、こうして、こうなるから、こうなる!」
患者レベルで理解出来るよう、頑張って説明してみます。
"スタート"と"ゴール"を明確化する
スタート
私を含めた慢性腎臓病患者(CKD患者)は
腎臓の機能が不全になることで、生体にどのような不具合が生じるのか。
数ある"不具合"の内の2点を
「腎性副甲状腺機能亢進症の発症機序」のスタート地点にしようと思います。
ズバリ
- リン(P)の尿中排泄低下(または不可)
- ビタミンD活性化障害
そこで、前提知識として
「そもそもリン(P)って、何に関係してんの?」
「ビタミンDの活性化って、何よ?」
この部分の説明をします。
リン(P)の働き
人体に必要なミネラルの一種で、カルシウムと同様に、骨の形成に寄与します。
※ここで登場した「カルシウム」があとあと"重要人物"となります。
ビタミンDの活性化
ビタミンDは、カルシウム・リン代謝の調節を行います。
腸からのリン(P)・カルシウム(Ca)の吸収を増やし
丈夫な骨を維持するのに必要なビタミンです。
ただ、このビタミンDが作用を発揮するためには、このままの状態ではダメで
肝臓と腎臓で"活性化"され、「活性型ビタミンD」へと変化する必要があります。
ゴール
腎性副甲状腺機能亢進症の臨床症状としては、いくつかあるようですが
ここでは1点に絞ります、ズバリ
- 血管石灰化
血管石灰化は、心血管病発症のリスク因子であり生命予後にも関連しているので
我々透析患者としては死活問題です。
第一段階
まず最初に、耳慣れない用語ですが、近年
腎性副甲状腺機能亢進症(RHPT)の"トリガー"とされている
「FGF23(Fibroblast Growth Factor 23)」線維芽細胞増殖因子23
について、簡単にご説明させて下さい。
「FGF23」は、骨細胞由来の物質で
腎臓からのリン(P)排泄に重要な役割を果たしています。
通常は(腎機能正常、尿が生成・排泄できる場合)
食べ物からリン(P)が消化管で吸収されると、骨細胞から「FGF23」が分泌され
尿中のリン(P)排泄を増加させることで、、血中のリン(P)濃度の上昇を抑制するわけです。
リン(P)の尿中排泄低下(または不可)
慢性腎臓病患者(CKD患者)は、残念ながら
「FGF23」が分泌されたとて、腎機能が不全なわけですから
リン(P)を尿として排泄できません。当然の結果として
血清リン(P)濃度は上昇してしまいます。
ビタミンD活性化障害
先に、ビタミンDというのは
"その作用を発揮するためには肝臓と腎臓で"活性化"され、「活性型ビタミンD」へと変化する必要がある"
と申し上げましたが、これも残念ながら慢性腎臓病患者(CKD患者)は
ビタミンDから活性型ビタミンDを作る力が弱まって(または無くなって?)いるため
ビタミンDそのものの血中濃度低下と共に、活性型ビタミンDも低下する。
第二段階
先に、ビタミンD(もうここでは活性型ビタミンDを意味します)は
"腸からのリン(P)・カルシウム(Ca)の吸収を増やし"
と申し上げましたが
活性型ビタミンDの産生減少は、その結果として
腸管からのカルシウム(Ca)吸収が低下し
血中のカルシウム(Ca)濃度の低下をもたらします。
第三段階
ここでやっと「副甲状腺」の登場です。
副甲状腺細胞には"カルシウム(Ca)感知性受容体"つまり
血中のカルシウム(Ca)濃度を感知するセンサーを持っています。
(※ちなみに、副甲状腺細胞にはビタミンD受容体も存在するそうです。後に述べる腎性副甲状腺機能亢進症(RHPT)の治療手段のくだりで関係してきます)
血中のカルシウム(Ca)濃度の低下を感知した副甲状腺細胞は、血中カルシウム(Ca)濃度調整のため
副甲状腺ホルモン(Parathyroid Hormone: PTH)を産生・分泌するわけです。
第四段階
分泌された副甲状腺ホルモン(PTH)が
低下した血中のカルシウム(Ca)濃度を上昇させるための手段、それは
骨からのカルシウム(Ca)溶出です。
これにより低下した血中カルシウム(Ca)濃度も調整され、めでたしめでたし
となればいいのですが…
骨からカルシウム(Ca)が溶出される際、一緒に
リン(P)も溶出されてしまうのです。
第五段階
副甲状腺の腫大に伴い、血中のカルシウム(Ca)濃度を感知するセンサーである
カルシウム(Ca)感知性受容体の密度が減少することが報告されているそうです。
カルシウム(Ca)感知性受容体の密度が減少することの帰結として
血中のカルシウム(Ca)濃度が上昇しても、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が抑制できなくなくなります。
結果
副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に産生され、骨代謝の回転が亢進し(高回転型骨病変)
骨からのカルシウム(Ca)およびリン(P)が過剰に血中へ供給されることになります。
そして
過剰なカルシウム(Ca)およびリン(P)は、血管壁に沈着し血管石灰化をきたすわけです。
副甲状腺ホルモン(PTH)の管理
一旦これまで述べたことをまとめてみると…
[su_note note_color="#f7f318"]
慢性腎臓病患者で副甲状腺ホルモン(PTH)分泌が亢進する背景には
リン(P)の蓄積と、ビタミンD不足並びに活性型ビタミンDの産生低下
さらにこれらに起因する
低カルシウム(Ca)血症の存在が考えられる。
[/su_note]
副甲状腺ホルモン(PTH)が高値の場合、これを是正しなければなりませんね。
ここで、腎性副甲状腺機能亢進症(RHPT)の治療手段として
私が現在処方されている薬を例に、その治療効果についてお話します。
活性型ビタミンD製剤(ロカルトロール)
副甲状腺細胞に存在するビタミンD受容体に結合することで
副甲状腺ホルモン(PTH)の産生を抑制します。
しかし
高カルシウム(Ca)血症、高リン(P)血症の原因となるという"副作用"があるので
具体的には、副甲状腺ホルモン(PTH)値が高く
リン(P)またはカルシウム(Ca)の値が正常または低値である場合に
投与が考慮されるそうです。
カルシウム(Ca)受容体作動薬(オルケディア)
副甲状腺細胞に存在するカルシウム(Ca)感知性受容体に直接作用することで
副甲状腺ホルモン(PTH)の産生を抑制します。
「オルケディア」は、カルシウム(Ca)受容体作動薬としては「レグパラ」に次ぐ薬剤。
上記の活性型ビタミンD製剤である「ロカルトロール」が
高カルシウム(Ca)血症、高リン(P)血症の原因となるという"副作用"があるのに対し
「オルケディア」は、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を抑制するとともに
血中カルシウム(Ca)値を上昇させず、且つ血中リン(P)値をも低下させる作用を有しています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回、私自身は
複数の専門文献を自分なりに読み込み、それをアウトプット(記事化)することで
腎性副甲状腺機能亢進症(RHPT)に関し、混乱し崩れてしまった知識体系を
いくらか整備することができたと思っております。
一方で当記事が、これをお読み頂いた読者とりわけ
私と同じ、医療従事者ではない慢性腎臓病患者の方々が
ご理解頂けるような内容・構成となったかどうか、正直自信はありません…。
ただ、医療従事者向けの専門文献を
患者目線というフィルターを通して、まとめ表現することは意識しましたので
「そうそう!そこの意味が知りたかったんだよ!」
と思っていただける点が一つでもあったら、今回のチャレンジは成功だと思ってます。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。