前回記事
その「まとめ」で、以下のように述べました。
実は、今回の記事はいわば「エピソード0」でして…
よりアカデミックな領域を勉強したいと、資料を検索したところ
日本透析医学会雑誌 2019年9号(52-9)に
「頻回・長時間透析の現状と展望」
という報告記事がございました。
前回ご紹介したガイドラインでは、頻回・長時間透析は
「発展的透析療法」の中の一部として取り上げられているにすぎませんでした。
日本透析医学会雑誌
こちら
「頻回血液透析」「長時間血液透析」に関しては
かなり突っ込んだものとなっております。
内容はかなり高度、記述も難解。しかし
私が理解出来た部分を、私なりになんとか表現してみます。
当ブログ読者の方々にとって
【在宅透析とは】日本透析医学会誌「頻回・長時間透析の現状と展望」を、患者自身が読んでみる
総論
内容は、前回ご紹介した
に述べられていたことと、ほぼ重複しております。
ただし
同ガイドラインは、あくまで「維持血液透析」のガイドライン。
前回記事は、この内「第5章 発展的血液浄化法」の
「Ⅲ.透析スケジュール」に特化した内容でしたので
一部補足させて頂きます。
重要と思われる箇所は「委員会報告の目的」
頻回・長時間血液透析については、いくつかの臨床的有用性が示されているが
どのような患者にどのようなスケジュールの透析治療を実践すべきかの指針は
今まで示されていなかったのが実状。
こうした背景を踏まえ
後述する7項目に関する事象を明確にすることを、目的としております。
各論
各論
- 透析量、水分管理
- 安全性(施設深夜長時間透析(INHD)の適応と安全対策の実態)
- 適応
- 患者管理と透析処方
- バスキュラーアクセス管理
- 透析装置(頻回・長時間透析に適した装置)
- 統計調査(JRDR 予後解析からみた頻回・長時間透析の至適透析量)
1.透析量、水分管理
ポイント
- 頻回・長時間血液透析の透析量(Kt/V)の問題点と課題
- 透析回数ならびに透析時間の溶質除去に及ぼす影響
- 頻回・長時間透析(高透析量治療)の透析量評価方法
- 適正除水と体液量管理
Ⅰ.頻回・長時間血液透析の透析量(Kt/V)の問題点と課題
適正透析の評価指標に関する記述です。
要点は…
「維持血液透析ガイドライン」で示されている"Kt/V"の必要最低値は
あくまで週3回透析時を想定したものであって
週3回以外のスケジュールには適応できない。
また
適正透析の評価指標として、中分子を含めた現在の視点からすれば
小分子である尿素を指標物質とした"Kt/V"のみでの評価では不十分。
一方で
中分子に関する指標は、現状
β₂ミクログロブリン(β₂M)以外に確立したものがない。
したがって、適正透析の評価指標として
より包括的な指標が必要。
参考資料
Ⅱ.透析回数ならびに透析時間の溶質除去に及ぼす影響
「溶質」とは、ここでは
❝透析患者血液中の尿毒症物質❞と捉えて差し支えないでしょう。
溶質除去に関し
「頻回・短時間透析」と「長時間透析」
とに分けて記述されております。
頻回・短時間透析の溶質除去
溶質の除去効率は、透析前半が高い。
したがって、頻回透析では
溶質の総除去量は、週当たり総治療時間のわりに多くなる。
例えば(※これは私の理解ですが…)
毎日2h透析の週当たり総治療時間は14h(2h×7)
週3回5h透析の週当たり総治療時間は15h(5h×3)
総治療時間では劣る毎日2h透析ですが
週当たり総治療時間のわりに、溶質の総除去量は多い
ということ。
さらに、頻回に透析することで
体内の溶質濃度のピーク値は低くなり、変動幅も小さくなる。
結果、生理的状態(normal physiology)に近づく。
分子別にみると
尿素のような小分子では
頻回透析による効率は特に高まる。
文中、尿素の透析効率が高まる根拠として
透析性が良好でかつ体液隔壁間移動抵抗も小さいため
との記述がある。
「透析性」については
❝ダイアライザーの膜間の移動のこと❞を指していると理解しました。
分子が小さい方が、中空糸の膜を通りやすいこと自明ですから。
「体液隔壁間移動抵抗」なんのこっちゃ?、と思いますが
私の理解では…
細胞内から細胞外へ出る時の細胞壁はじめ
物質(溶質)が体内を移動する際には、都度「隔壁」なるものがあって
その「壁」が溶質の移動を妨げる(抵抗となる)
このことを指しているんじゃなかろうか、と。
一方で、リン(P)については、尿素に比して
- 体内における分布スペースが大きく、また
- 隔壁間の移動が複数あると想定されるため
頻回透析であっても、十分な除去量を達成するためには
1回3時間の透析は必要とのこと。
長時間透析の溶質除去
β₂ミクログロブリン(β₂M)のような「隔壁間移動抵抗」のある中分子物質や
体内における分布スペースが大きいリン(P)などは
透析を長時間行うことによって
深部区画からの除去が増え
溶質の総除去量が多くなる。
※深部区画(素人表現では❝体内の奥底❞といったところか)
また、深部区画からの除去が増えることで
透析後の"リバウンド"も小さくなる。
透析でいうところの"リバウンド"というのは…
透析終了後から溶質は細胞内から細胞外(血管内)に移動するため
血中の溶質濃度は急速に上昇する。このことを
"リバウンド"現象”といいます。
このことが理解できると
前述した「頻回・短時間透析」の場合
"リバウンド"が大きくなる、ということが理屈が分かる。
つまり
「頻回・短時間透析」での溶質除去は
尿素のような「体液隔壁間移動抵抗」が"小さい"溶質が中心で
深部区画から「体液隔壁間移動抵抗」の"大きい"中分子を十分除去しきれていないため
透析終了後の"リバウンド"現象”が生じることになる。
Ⅲ.頻回・長時間透析(高透析量治療)の透析量評価方法
ごめんなさい。
こちらは「評価方法」とあるように
難解な数式のオンパレード😱、私に理解できるはずもなく…💦
数学や物理・化学の知識に自身のある方は、是非チャレンジしてみて下さい。
私は撤退させて下さい🙇。
Ⅳ.適正除水と体液量管理
「頻回透析」や「長時間透析」は
週あたりの総透析時間を増やすことが可能
結果、除水速度を軽減できるため、水分管理が容易。
ポイント
ドライウエイトの達成
透析低血圧予防
高血圧対策
などに有用である。
ここでのキーワードは❝プラズマ・リフィリング❞(plasma refilling)。
除水する、ということはとは
血液中の水をダイアライザーの膜を介して除去することを指します。
例えば…
5000㎖の血液が体内を循環しているとして、除水量を2500㎖とします。
2500㎖の水が体内から抜ける、単純に考えると循環血液量が半分になってしまいます。
これでは激しい血圧低下がおこってしまいますが、ことはそう簡単ではありません。
体内の水は、細胞内から細胞外(間質)、そして血管内へと移動していきます。
(この現象のことを❝プラズマ・リフィリング❞といいます)
したがって実際は
透析治療中に血管外の水が血管内に移動して、血管内の水分量を保とうとすることで
血液量の過剰な減少や大きな血圧低下をおこさずに透析治療がおこなえるわけです。
(参考資料:MediPress)
しかし
除水速度が速く(大きく)なると、❝プラズマ・リフィリング❞が追随できず
結果、透析低血圧や臓器虚血を発症、悪化させることになる。
また同時に
透析毎に細胞外液量が大きく変動するという事象は❝非生理的❞な状態であり
(※素人的には、透析毎の体重の変動幅が大きい、ということか)
心血管系合併症の最大要因と考えられています。
「維持血液透析ガイドライン:血液透析処方」には
❝平均除水速度は、15㎖/kg/時以下を目指す❞とありますが
必ずしも医学的根拠が十分あるとはいえない、という。
この❝15㎖/kg/時❞というのは
透析が中2日空いたスケジュールの限界値であり
4時間透析で体重の6%の除水を行うことに相当する。
除水速度は
頻回・長時間透析により修正可能なリスク因子であるため
中2日のような長い透析間欠期を回避することで
週初めの心血管事故を防止できる可能性がある。
2.安全性(施設深夜長時間透析(INHD)の適応と安全対策の実態)
主に「オーバーナイト透析」に関する記述。
- 私自身、現在オーバーナイト透析をしてるわけではないこと
- 仮に、HHDに比してオーバーナイト透析に優位性があると判明しても
HHD環境からオーバーナイト透析環境へ移行することは、現実的でない
以上の点から、甚だ勝手ではありますが
当該項目の説明は、割愛させて頂きます。ごめんなさい🙇。
まとめ
当初は、一記事で全てをご紹介する目算でしたが…
見事にハズレました😓。
「1.透析量、水分管理」が
全体を通じて、私が思う"肝"だったこともあり
予想に反し、文字数がかさんでしまいました。
「3.適応」以降については
次回持ち越しとさせて下さい🙏🙏。
大変申し訳ございません。
次回以降も今記事同様、原文献をしっかり読み込み
よりよい形で皆様に有益と思われる情報を提供致します。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。