現在週6回、在宅で血液透析を行う私が(HHD)
改めて
慢性腎臓病(CKD)と"たんぱく質"との関係
について学び直そうと思ったか。
キッカケとなった、あるツイートがございます。
タンパク質を多く摂取しても腎臓にダメージを与えないというエビデンスが報告されています。https://t.co/rqCRG0X2nw
最新のAJCNの報告では、高い相対的なタンパク質量と低い相対的な脂肪量を含む栄養素組成は、慢性腎臓病のリスクを減少させる可能性があるとのこと。https://t.co/JynpxBXfNe
— 庵野拓将 (あんの たくまさ) (@takumasa39) February 10, 2021
これから述べる内容に、決して特定のツイートを"ディスる"意図はありません。
「私には納得するに足りる内容ではなかった」だけのことですので…
何卒ご了承くださいませ。
同ツイートを受けてSNS上では、一部いさめるコメントも見られますが
やはり、というか案の定と言いますか…
- たんぱく質量気にしなくてもすむ!
- 肉食べまくってもOKってことか!
- もう少しプロテイン増やそう!
との声が散見。一方で専門家ゆえ
サルコペニア・フレイルの高齢者に関する領域まで言及する方も。
私自身はまず、同ツイートで紹介されている報告の原文を読んでみました。
確かに《Results》部には
Higher relative protein intake in subjects with normal kidney function was significantly associated with a lower risk of incident ESKD
との記述はありましたが、この
"observational investigation"(同文献より)一事ををもって
「タンパク質を多く摂取しても腎臓にダメージを与えないというエビデンスが報告されています」
と言い切ることに、素人ながら違和感を覚えました。
そこで、今の私にできることは「ガイドラインを読むこと」ということで
日本腎臓学会『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013』
を"斜め読み"しました(精読したとて素人が理解できるものではない)。
その上で私の感想として、僭越ながら下記のようはリツーイトをしたわけです👇
日本腎臓学会『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013』CKD の進展を抑制するために、たんぱく質制限は推奨されるか?(P25~30)https://t.co/KYJOrfZVTz
これ読むとイチ"observational investigation"で「たんぱく質を多く摂取しても腎臓にダメージを与えない」とする程コトは単純じゃない気が… https://t.co/6syydX5Ud0— 腎生を善く生きる@在宅血液透析(HHD)8年目突入‼️ (@7hYpoVO5tzfBVtn) February 11, 2021
慢性腎臓病(CKD)と"たんぱく質"との関係、このことは
CKDの進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することは推奨されるか?
との命題を考えることになります。
2002年末に先行的生体腎移植手術を受け、その後移植腎廃絶
現在、週6回の在宅血液透析を行う私が
たんぱく質摂取量を制限(食事制限)していたのは、もうかれこれ20年以上も前の話。
知識の更新作業をするには、いいキッカケかな、と。
イチ患者でありイチ素人が『医』について学ぶには当然限界がありますが
やはり当該「ガイドライン」を読むことが、出来うる最良の事かと思いまして
今回は下記参考文献を使い
素人が素人なりの理解で、素人である自分自身に『医』の知識を落とし込む作業を行いました。
※「小児」と「高齢者」に関する領域については当事者意識がありませんので、ここでは割愛させて頂きます。
- 『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』
- 『エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2014』
- 『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013』
Table of Contents
【腎臓病患者と食事】慢性腎臓病(CKD)と"たんぱく質"との関係を学び直す
従来の認識(私個人的な認識)
過剰なたんぱく質摂取は糸球体過剰ろ過を促進
今からもう20年以上も前になりますが…
当時の私が「たんぱく質摂取量を制限する理由」として
一番に認識していたことは、"これ"でした。
"糸球体過剰ろ過"というのは「糸球体内圧」に関係します、よって
たんぱく質制限に加えて、各種降圧薬も服用してました。
- アンジオテンシン受容体拮抗薬 (ARB)
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)
- カルシウム拮抗薬(CCB)
- 利尿薬
これらは血管拡張作用により、全身の血圧を低下させるだけでなく
「糸球体の出口の血管を広げて、腎臓の負担(糸球体内の血圧)を軽減させる」と
主治医からよく聞かされてました。
腎機能低下時にはたんぱく質の代謝産物が尿毒症物質として蓄積する
幸運にも「先行的生体腎移植手術」を受けられた私でも
尿毒症症状はそれなりに発現していましたので
「たんぱく質摂取量を制限する理由」として
"こちら"も認識していました。
まとめ+α
素人がグダグダと説明するより💦
今回の参照文献の中から
"従来の"慢性腎臓病(CKD)とたんぱく質との関係についての記述箇所をご紹介します。
従来から慢性腎不全に対する腎保護効果を期待して、たんぱく質制限が広く行われてきた。1990年代までは他に有効な治療がなく、尿毒素や酸、リンの負荷が軽減され、糸球体内圧の低下が期待されるたんぱく質制限は、透析導入の延長や骨・ミネラル代謝異常の軽減が可能な唯一の介入手段であった。
引用元:『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013』
過剰なたんぱく質摂取は糸球体過剰ろ過を促進し腎機能に影響を与える。また、腎機能低下時にはたんぱく質の代謝産物が尿毒症物質として蓄積する。(中略)たんぱく質摂取制限による腎保護効果を期待して(中略)たんぱく質摂取制限を指導する…
引用元:『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』
"+α"として、私が個人的に興味深かった記述をご紹介。
『たんぱく質制限を受けた患者のうち、問題なく腎機能が安定した患者がたんぱく質制限を有効と考えて継続しやすい』といった生存バイアスなどを生じることが考えられ、たんぱく質制限の効果を過大評価しやすい。
引用元:『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013』
「生存バイアス」とは…
"何らかの選択過程を通過した人・物・事のみを基準として判断を行い、通過に失敗した人・物・事が見えなくなること"(参照元:Weblio)
患者の立場、とりわけ腎保存期の私にとって、たんぱく質摂取を制限することは
「運動制限」と同様
"効果を過大評価"するもなにも「そうするしかなかった」わけで
"バイアス"などと言われましても…
新たな認識(私にとっての)
たんぱく質摂取制限は、腎機能の低下速度を抑制する効果には乏しい
現時点で、たんぱく質制限の重要性そのものは変わっておらず
各国のガイドラインでも推奨されてはいるようです。
『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013』には
たんぱく質制限は尿毒素の蓄積を軽減し、ミネラル代謝異常や代謝性アシドーシスも改善することから(中略)、一定期間は腎代替療法の導入を遅らせることが可能であると考えられる。
との記述もある。
そんな中、個人的に非常にインパクト大だった記述がこれ👇
たんぱく質制限は、腎代替療法が必要となるまでの時間を延長するが、腎機能の低下速度を抑制する効果には乏しい。
引用元:『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013』
- 『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』
- 『エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2014』
- 『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013』
私の読んだ3つのガイドラインには、いくつもの研究報告に関する記述がありますが
これぞ専門家向け、といった内容で
素人の私には到底手に負えない。
そんな中『エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2014』で
比較的シンプルに内容がまとまった記載がございましたので、ご紹介します。
たんぱく質摂取制限によるGFR低下速度の抑制効果は限定的である。(中略)GFR低下速度について解析している。その結果、低たんぱく食によるGFR低下速度抑制効果は(中略)非糖尿病CKD患者ではその効果が低いと報告された。(中略)たんぱく質摂取制限は、末期腎不全や死亡のリスクは抑制するが、腎機能低下速度を抑制する効果には乏しいと考えられる。
※GFR(Glomerular Filtration Rate:糸球体濾過量)
かなり中略してますが💦
まあ、要するに
「厳格なたんぱく質摂取制限」したケースと
「通常のたんぱく質摂取制限」したケースとで
色々な数値(※素人には分かりません…)を比較検証した結果
たんぱく質摂取制限は、腎機能低下速度を抑制する効果には乏しい
と現状結論付けているんでしょうね。
補足
3つの参照ガイドラインの中では一番新しい『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』には
CKD患者に対するたんぱく質摂取制限は、特にDM非合併CKDや1型DM患者のGFR低下抑制に対して有効で、2型DM患者でも有効な可能性がある。
※DM(Diabetes Mellitus:糖尿病)
との記述がある一方で、"但し書き"として
これらのエビデンスの多くは、腎臓専門医ならびに管理栄養士の指導の下に、指導内容の遵守率が良い状態での結果、もしくは適格基準が厳しいデザインで有効性が示されたもの
との記述もあり、CKD診療一般にそのまま当てはめることは、難しいとのこと。
※同内容を裏付けるような記述が『エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2014』にございましたので、一応ご紹介。
たんぱく質摂取制限の有効性が示せなかった原因の1つとして、たんぱく質摂取制限の実施が困難であったことが影響した可能性がある。症例報告としては、たんぱく質制限が的確になされて、臨床上有用という報告があるが、たんぱく質摂取制限を遵守できないという事実は、たんぱく質摂取制限の有効性を介入研究で明らかにすることが困難であることを示唆している。
厳格なたんぱく質制限による生命予後悪化の可能性
これも
「厳格なたんぱく質摂取制限」したケースと
「通常のたんぱく質摂取制限」したケースとで
色々な数値(※素人には分かりません…)を比較検証した結果
末期腎不全を単独のアウトカムにした場合は有意にリスクが低下せず(中略)、逆に死亡をアウトカムにした場合は有意なリスクの上昇がみられた(中略)。さらにこの長期追跡結果報告では、複合エンドポイント(末期腎不全または死亡)をアウトカムにした場合(中略)透析導入後の死亡リスクが看過されることも示された。
引用元:『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013』
※アウトカムとは…
転帰と訳され、治療や予防などの医学的介入から得られるすべての結末のこと。臨床研究においては、介入効果によって得られる判定項目をアウトカムという。(引用元:日本理学療法士学会)
これもかなり中略してますが💦
補足
上記報告内容の但し書きとして
"たんぱく質摂取量に比してエネルギー摂取量が不足していたことから、より厳格なたんぱく質制限による死亡リスクが顕在化した可能性がある"
との記述もあり、一足飛びに
厳格なたんぱく質制限⇒死亡リスク増大
というような話ではなさそうです。
まとめ
慢性腎臓病(CKD)の進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することは推奨されるか?
この問いに対する『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』での回答は…
CKDの進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することを推奨する。ただし、画一的な指導は不適切であり、個々の患者の病態やリスク、アドヒアランスなどを総合的に判断し、腎臓専門医と管理栄養士を含む医療チームの管理の下で行うことが望ましい。
引用元:『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』
「たんぱく質摂取量を制限する」ということは、言い換えれば
「たんぱく質という重要な栄養素を制限する」ということ。
この辺りは今回スルーした、サルコペニア・フレイルの高齢者の領域と(おそらく)関わること。
現在"アラフィフ"の私もいずれは高齢者となるわけで、決して他人事ではありません。
折を見てまた勉強する必要はありそうです。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。