
プロローグ:私の移植歴と検査結果の衝撃
2002年12月末、私は母をドナーとした生体腎移植を受けました。
しかし、慢性拒絶反応と診断されてからは徐々に移植腎機能は低下していき、2013年、移植腎廃絶。
せっかく母からもらった腎臓を失ったその時の喪失感は計り知れないものでしたが
「いつかまた腎移植を受けられるかもしれない」という微かな希望を胸に
在宅血液透析という、日本全国の透析患者のうちたった0.2%にしか導入されていない透析療法に挑戦することにしました。
それから11年が経ち、現在も週6日ほぼ毎日自宅で血液透析をする日々です。
抗HLA抗体検査結果がもたらした衝撃
2025年1月の「献腎再診外来」にて、医師から
「お母さま(廃絶してしまった腎臓のドナー)に対する抗体がどれくらいあるか一度検査してみましょう」
と提案されました。この検査は、数年前に保険適用となった抗HLA抗体スクリーニング検査というもの。
過去の移植や輸血などで形成された抗HLA抗体の有無や強さを調べるものであり、献腎移植待機者にとって重要な情報を提供するものだそうです。
1月の献腎再診外来の際医師からは「何かあったら(話をしておく必要なあるような結果だったら)電話します」ということでした。
時は過ぎ3月を迎えてしまったので「年1で献腎再診外来はあるわけだし、わざわざ電話をして知らせるほどの結果ではなかったのかな?」と思っていた矢先、病院から入電がありました。
正直、嫌な予感はしました。
案の定、検査結果は「陽性」、しかも「強陽性」。医師からは
「この結果では献腎移植の順番が回ってくる可能性が非常に低くなる」と説明されました。
二度目の移植=献腎移植を待つにしても一度移植腎廃絶を経験していると、提供される腎臓が通常(=移植未経験)の待機者に比べてマッチングしずらい
という話は、移植腎が廃絶し在宅血液透析を続けながら年に1回の献腎再診外来で都度聞いていたこと。
自分の頭では理解はしていたつもりでしたが
献腎移植待機年数が一般的に約16年と言われている中で、自分の待機年数が10年を超えたあたりから
「もうすぐかも?」
と淡いとわかっていつつ期待していた自分がいたもんですから
「抗HLA抗体強陽性」という明確な事実を突きつけられたことは
11年間育ててきた希望は一気に崩れ落ちることとなりました。
「抗HLA抗体強陽性」とは何か?
医師の説明によると、「抗HLA抗体検査」で「陽性」しかも「強陽性である」というのは、
私の免疫系が過去の移植で母親由来のHLA(ヒト白血球抗原)に対する抗体を作り、それが非常に高いレベルで残存している状態を指すということ。
この状態では、新たなドナー腎臓が提供されても、そのHLA型が私の持つ抗体と一致してしまう場合、拒絶反応が強く起こる可能性が高い
そもそも、臓器移植ネットワークによる移植手術候補者リスト(脳死判定がでて臓器摘出・提供となった段階からドナー腎臓に適応するレシピエントの候補者リストを作成する?)から除外されるとのことでした。理由は拒絶反応が強く起こる可能性が高いことはわかっているから。
さらに、これは素人ながら自分で調べた内容ではありますが
この抗体は母親由来のHLA型だけでなく、それと似た構造を持つ他のHLA型にも交差反応を起こす可能性があるそうな。
そのため、適合するドナー腎臓の数が大幅に減少し、移植のチャンスが極めて限られてしまうという現実を突きつけられました。
希望と絶望の狭間で
この結果を受けたとき思いました「もう二度と移植のチャンスは訪れないのだろうか?」。
頭では理解していても、心が追いつかず、不安と絶望感で押しつぶされそうになったのも事実。
しかしそんなネガティブな思いも1日程度。
「この現実とどう向き合うべきなのか」、「まだできることはあるのではないか」
「移植=幸せ、というわけじゃない」、「今のままで十分。これ以上何をのぞむというのか」
幾つかの前向きな思いが湧き上がってきました(正直、前向きに"なろうとしていた"と表現するのが正確か)。
次への一歩
医師からは、完全に道が閉ざされたわけではないとは言ってもらいました(臓器移植ネットワーク登録を解除する必要はない)が、非常に厳しい制約があることに変わりはなく
例えば…「脱感作療法」という言葉があります。
これは移植前に「血漿交換」や「免疫抑制剤(例えばリツキサン)投与」を行って抗体の産生を抑える、というもの(と私は理解している)。
ただしこれは、移植手術の時期やタイミングを事前にコントロールできる、移植手術までの時間をある程度確保できる「生体腎移植」において意義のあることで
脳死判定により腎臓が摘出されてからレシピエントに移植するまで緊急性を要する「献腎移植」においては、現実的な策とは言い難い。
医師からは仮の話として、臓器提供の一報が入ったら私には通常より1日でも早く病院に来てもらって
2~3日でも「血漿交換」を"ぶん回し"すればなんとかなるかもしれないが…みたいな話は頂いたが
正直歯切れはよいものではなかった。
次回の「献腎再診外来」は2026年1月予定。それまで腎移植主治医や移植コーディネーターさんと話す機会はない。
話を早めに聞いたとて、現状何かが変わるわけではない(定数)。
とはいえ、自分の身体のことです。
自分なりに調べて勉強したりすることで、自身のメンタルコントロールつまり「変数」を変えることはできるかもしれない。
日を改めて…
- HLAとは何か?
- 抗HLA抗体検査とは何か?
- 腎臓移植における抗HLA抗体検査の意義とは?
- 脳死判定患者が出て腎臓が提供された場合の臓器移植ネットワークが手術候補者を絞り込むリスト化する過程は?
- 一度目の移植手術するも移植腎が廃絶、二度目の腎移植(献腎移植)を待つ患者が抗HLA抗体強陽性と診断されたことの意味とは?
- 抗HLA抗体強陽性と診断された献腎待機者は今後臓器移植ネットワークでどのような扱いをされるのか?
- 抗HLA抗体強陽性と診断された献腎待機者は長く待機していても容赦なく手術候補から除外されるのか?
- 脳死判定患者が出て腎臓が提供された場合の臓器移植ネットワークが手術候補者を絞り込むリスト化する過程でほぼ無条件でリストから除外されてしまうのか?
- 献腎待機年数を10年経過し献腎移植への期待も少しづつ膨らんできた患者にとって抗HLA抗体強陽性との診察結果がもたらす心的ストレスは?
- 抗HLA抗体強陽性と診断された献腎移植待機者にもう献腎移植をする夢はかなわないのか?
- どんな現実と希望が待っているのか?
少々時間はかかるかもしれませんが、素人なりに理解したことを
同じ素人に向けての情報提供として内容をシェアできたらと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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