「現在の透析環境が未来永劫続くわけではない」
在宅血液透析のメリットを日々享受していると
とかく忘れがちになります。
避けようのない天災や国策の変更等は
(明確な根拠はないが)確率としては低いように思えますが
❝自分の身体が現在のように動けなくなる❞、ということは
現実的な問題として思い浮かびます。
献腎移植希望者の待機年数が20年弱の現状を考えると
この先まだまだ10数年、透析からは逃れられないでしょう。
そうした場合、身体を現在と同じ状態でキープし続けることは、難しい。
- 加齢による肉体の衰え
- シャントの閉塞
- 基礎疾患の増加
そこで今回は
現在は、なんら問題なく行えている在宅血液透析前準備
一連の流れを言語化、棚卸しをしながら
現在よりも体力レベルが落ちる「高齢になった自分」を想定した場合
特により厳しくなるであろう動作を
洗い出してみたいと思います。
在宅透析導入検討している方は
現在の自分だけでなく、高齢になった自分の姿も考えながら検討する
【在宅透析と高齢化】HHD前の準備作業を「高齢になった自分」を想定して考える
現在行っているHHD前の準備作業の肉体的負荷が
加齢により肉体が衰えた結果、現在よりどの程度(体感的に)増すか
私の独断と偏見で
「大」「中」「小」
で評価致します。
ポイント
- 手洗い
- テーブル、椅子の除菌
- 透析液、生理食塩水のセット「大」
- ダイアライザー、血液回路の準備
- 血液回路の設置「小」
- ダイアライザーの設置「中」
- 静脈側アクセスラインを生食で満たす「小」
- 透析液カプラーとダイアライザーを接続「中」
- 残り約200㎖の生食を回路内に流す
手洗い
余程のことがなければ、問題ないでしょう。
透析用テーブル・椅子の除菌
アルコールティッシュを用いて
透析用テーブル・椅子を拭いて除菌します。
現在使用するリクライニングチェア
出来るだけ心身に負担のかからないように、との理由で
そこそこ上質、大きさもそれなりなので
念入りに全体を除菌するとなると、腕の動きは大きくなります。
とはいえ、取り立てて問題視する点は、なし。
透析液、生理食塩水のセット「大」
生理食塩水は1つの段ボールに5パック。ただ
毎回の透析で持ち運びするのは1パック(1.5㍑)なので
ほぼ問題はない。負荷「大」なのは、重量のある透析液。
運搬
加齢による筋力の衰えを考えた時
まずネックとなるのが「透析液の移動」
だと思います。
毎月、配送業者の方が備品庫として使用している押入に
全ての透析液(生理食塩水も)を運搬、整然と配置して下さるのですが
毎回、当日使用する透析液を透析機器の横まで運ぶのは、患者自身。
我が家のレイアウトでは
備品庫から透析機器までの距離、約4m。
参考
- 6㍑×2個(A液・B液)
- 9㍑×2個(A液・B液)
段ボールから容器を引き出し、運ぶ。
特に、9㍑の透析液の重量感は、なかなかなもの。
押入の奥まった所に収納してあるものを引き出すことも、ある。
筋力、足腰が弱ったことを想定すると
決して楽な作業ではないなと、推察します。
設置
透析液のキャップを開封し
透析機器から原液ノズルを引き出し、透析液に刺し込みセットしますが
透析液キャップの開封にも、意外と力が要ります。
補助具があるので、実際はそれほどの力は必要ありませんが
それでも9㍑の蓋は、結構しっかり閉まっている印象で
回し開けるのに硬さを感じます。
透析機器の電源をオンし、続けて
液置換ボタンをオンします。
ダイアライザー、血液回路の準備
備品庫から、当日使用するダイアライザー、血液回路を取り出し
テーブルに用意します。
取扱いに注意するだけで、問題なし。
血液回路の設置「小」
外袋を開封、血液回路本体を取り出し
動脈側(赤)と静脈側(青)とをバラシます。
外袋はテーブル脇にテープ止めし、ごみ袋として再利用します。
静脈側回路設置
静脈側エアトラップチャンバーを設置。
薬液注入ライン先端のキャップを閉め、クランプを閉じ
鉗子をかけます。
トランスデューサー保護フィルターを静脈圧ポートに接続します。
先端を指先で摘み、ネジって付けたり外したりするのですが
特に外す際(後工程)、少々硬さを感じます。
もし、アミロイド沈着等で関節が不自由となれば、結構しんどいかも。
(もっとも、アミロイド沈着による不都合は、このフェーズに限りませんが)
エアトラップチャンバー下方の静脈側アクセスラインをほどいて伸ばし、気泡検知器に取り付け
静脈側患部接続部を余液受けに固定します。
動脈側回路設置
血液ポンプカバーを開け
血液ポンプを手で回しながら、動脈側回路のポンプセグメント部を取り付けます。
導入当初の❝一号機❞の頃は、回し付ける時若干硬さを感じましたが
現在の❝二号機❞は改良され、スムーズに回せます。
血液ポンプカバーを閉め、動脈側エアトラップチャンバーを設置します(最初は逆さに)。
私の場合、この段階で
ヘパリンと回路(抗凝固剤注入ライン)とを接続し
ヘパリンをシリンジポンプへセットしてしまいます。
血液ポンプ下方にはラインが2本ありますが
動脈側患部接続部のあるライン先端を、余液受けに固定
もう一方のラインは、クランプとクレンメを閉じ、生理食塩水とつなぎます。
生食パックの接続部はゴム栓状になっていて
そこに針状のライン先端を根元まで刺し込むのですが
捻じり込む際、少し力が必要な場合があります。
点滴筒を1、2回押しつぶして、そこに生食を溜めます。
クレンメを開けて、動脈側アクセスラインを生食で満たしますが
途中、回路内に気泡を確認したら、鉗子で回路を叩いて気泡を抜きます。
100㎖程流したら、患部接続部より10㎝位の位置に鉗子をかけ
患部接続部を余液受けから外し、かけた鉗子の握り部分を使って点滴棒フックに引掛けます。
ダイアライザーの設置「中」
ダイアライザー外袋を開封、本体を取り出します。
ダイアライザーと血液回路を接続するのですが
この作業、個人的には少々キツイ。
接続部がネジ式になっているので
回路側接続部を指先で摘まんで捻じっていくのですが
最後までねじ込むのに結構力がいります、特に冬場。
素材がゴム状だからでしょうか、夏場に比べ冬場の方が締まりがキツイ。
ダイアライザーと血液回路の接続部というのは、非常に大事な箇所
しっかり閉まっていないと大変なことになる、との思いから
余計に力が入ってしまっているのかもしれませんが、安全上これは致し方ないか、と。
静脈側アクセスラインを生食で満たす「小」
ここの工程は
肉体的負荷、というより手順がやや複雑ということで、負荷「小」としました。
血液ポンプをオン、スピードは100㎖/min。
私の場合は、このタイミングで
ダイアライザー外袋を捨てたり、透析経過表を準備し
日付・DW・前日終了体重・予定後体重等を記入してしまいます。
動脈側回路ポンプセグメント部内に大きめのエアが溜まりがちなので
血液ポンプを一旦止め、扉を開け
ポンプセグメント部の一部付け直しをしながら、エアを逃がします。
導入時トレーニングでは、❝血液ポンプ速度を上げてエアを逃がす❞、と教えられましたが
経験するうちにに「これのがいいんじゃないか?」と。
ポンプが動いているときにカバーを開けると警報が鳴るので、そこは注意。
逃がしたエアは、動脈側エアトラップチャンバーへ移動するので
そのタイミングで動脈側エアトラップチャンバーを正常な向きにします。
生食がダイアライザー内を伝い
静脈側患者接続部から流れ出たのが確認できるまで、しばし休憩・・・
さて、プライミング再開。
ポンプを一旦止め、静脈側エアトラップチャンバー下部に鉗子をかけ
同時に、トランスデューサー保護フィルターを透析機器本体から一旦外す。
前述しましたように
先端を指先で摘み、ネジって外すので
少々硬さを感じます。
この状態でポンプを動かすと、静脈側エアトラップチャンバーに生食が溜まってきます。
高さ2/3程度まで生食が溜まったらポンプを止め
トランスデューサー保護フィルタを静脈圧ポートに再度付け直します。
静脈側エアトラップチャンバー下部にかけた鉗子を外し、ポンプ再開。
しばらくポンプを動かし生食を回路内に流し続けますが、その間に
ダイアライザーをホルダーから一旦外し
ダイアライザーの側面を軽く叩いて、内部のエアを除去します。
後工程でもダイアライザーのホルダーを、手のひらで掴んで開閉する動作がありますが
多少の握力は必要。
ダイアライザーをホルダーに着け直し、その後
静脈側回路内のエアの有無を一通り確認、あれば逃がします。
ここでまた、しばし小休憩。
生食が残り700㎖になったら(=生食を800㎖流したら)、ポンプ停止。
透析液カプラーとダイアライザーを接続「中」
ダイアライザーと静脈側エアトラップチャンバーの間に、鉗子をかけます。
ダイアライザーをホルダーから一旦外し
透析液流入・流出部が上になるような位置(平行)に、ダイアライザーをホルダーにはめ直します。
私はこのタイミングで、気泡検知器の扉を一旦開けてエアの有無を確認します。
というのも
導入当初、透析開始して早々、気泡検知のアラートが鳴ったことが、しばしばありました。
気泡検知器に挟まれた回路内にある気泡は、気泡検知器を開けなければ見えません。
透析が開始されてからの気泡警報は、超面倒くさい(まあ、大事な警報なのですが)。
危険な芽は早めに摘んでおきましょう、ということです。
エアを静脈側エアトラップチャンバーへ逃がしたら
再度回路を気泡検知器に設置、カバーを閉めます。
このカバーを閉めるのも、少し硬いかな。特に前述した
透析開始後に気泡警報が鳴り、気泡の有無を確認した後に気泡検知器カバーを閉める時は
シャント肢が不自由な分、余計硬さを感じます。
静脈側エアトラップチャンバーを鉗子で叩いて、内部のエアを除去します。
❝お上品❞に叩いてもエアは除去出来ないので、結構な力を込めて「カンカン」叩きます。
この、鉗子で「カンカン」叩く動作は、非常に骨が折れます。
透析液カプラーを受け皿から取り出し、バイパスコネクターから外します。
赤から外すのですが、これにはちょっとしたコツがいります。
ひと思いに一気に外すと透析液が飛び散るし
モタモタしていると、これまたカプラーから透析液がポタポタ垂れてきます。
詳しいことは分かりませんが
内部に圧(陰圧?)がかかっていることで
上手くカプラーとバイパスコネクターを外してあげると
「プシュー」という音と共に、透析液が機器側へ戻ることで
カプラーから透析液がポタポタ垂れる事象は起きない、ということです。
カプラーをダイアライザーに接続
透析液流出部(赤)透析液流入部(青)2か所接続します。
現在、我が家の❝二号機❞のダイアライザーホルダーは
高さ約120㎝に位置しています。
接続する際、カプラーを持った利き腕の肘を肩より上に挙上し
上から押し込むようにダイアライザーと接続します。
この「肘を挙上した位置から下へ押し込む」
という動作は、肩・手首にやや負担がかかると思われます。
ダイアライザを透析液流出部(赤)が斜め上になるようポジショニングします。
この時
透析機器本体から伸びたチューブの位置を❝いい塩梅❞にするのに
接続したばかりのカプラーを、ダイアライザーに接続したまま捻ったりします。
この時「キュッキュッ」という摩擦音的な音がする、ということは
捻じりの動作に少々の抵抗がある、ということです。
ガスパージは勝手に終わりますので
ガスパージボタンを押せば、ひと段落です。
残り約200㎖の生食を回路内に流す
透析液流出部(赤)が斜め上になるようポジショニングしていたダイアライザーですが
この段階で再度、静脈側(青)が上になるようポジショニングします。
ここではダイアライザーと、透析機器本体から伸びたチューブがカプラーを介して接続しているので
一言で「ダイアライザーのポジショニングを変える」、と言っても
多少の重さ・抵抗を腕に感じます。
また、ダイアライザーを持ちながら前述同様、チューブの位置をまた❝いい塩梅❞にするのに
音を「キュッキュッ」させながらカプラーを再び捻ったりするので
多少腕には負荷のかかる動作と言えましょう。
約200㎖の生食を流し終えたら
静脈側患部接続部より10㎝位の位置に鉗子をかけます。
動脈側と違うのは、鉗子をかけた後
静脈圧表示を見ながら、頃合いを見計らって血液ポンプを止める、という点。
(理由はここでは割愛)
患部接続部を余液受けから外し、かけた鉗子の握り部分を使って点滴棒フックに引掛けます。
まとめ
「管理病院から頂くマニュアルがあるんだから
プライミングの一連の流れなど、わざわざ言語化する必要ないのでは?」
という意見、確かにごもっともだと思います。
しかし、今回のテーマである
❝「高齢になった自分」を想定して❞
という点にフォーカスすることで
今現在、何気なく行っている、行えている動作も
違った風に見えたり感じたりできるのではないでしょうか。
冒頭にも申し上げました
「現在の透析環境が未来永劫続くわけではない」
現在の在宅血液透析が行えなくなる可能性が一番高いのは
私は、自身の肉体的な衰え、だと思ってます。
ならば
今からそこを意識する、時々でも意識することは
不幸にも望まない形に現状が変わってしまった際の
メンタルの❝揺らぎ❞を、多少なり小さくできるのではないか。
そう思えば、私個人としては
今回の試みは無駄ではないかな、と思っています。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。