内シャントによる血液透析は、透析毎に内シャントへの穿刺を必要とし
穿刺時の痛み(疼痛)は、患者にとっては大きな苦痛です。
この穿刺時の痛みは、「通院血液透析」だろうと「在宅血液透析」だろうと変わりません。
局所麻酔の類の薬の使用による、穿刺時の疼痛緩和について
臨床工学技士/看護師の方に穿刺を"される"患者さんにとっては
シンプルに、大いにメリットがあることでしょう。
言わずもがな
《自己穿刺》というのは、"自分で自分の腕(血管)に針を刺す"わけです。
「自己穿刺だって、痛くないに越したことはないでしょ?」
いやいや
在宅血液透析での自己穿刺では、事情が少々変わってきます(変わってくると思ってます)。
結論から申し上げますと、私の場合、総合的な判断として
局所麻酔の類の薬(ペンレステープ、エムラクリーム等)は使用していません。
今回は、私が
- ペンレステープを貼らない
- エムラクリームを塗らない
【在宅透析と穿刺】私が自己穿刺で《ペンレステープ/エムラクリーム》を使用しない理由
穿刺時疼痛が患者へ及ぼす"悪影響"
[su_box title="参照文献" style="soft" box_color="#178cfd"]
『リドカイン-プロピトカイン配合クリーム(エムラクリーム)による透析穿刺疼痛の緩和』日本透析医学会雑誌 50巻7号
『局所皮膚冷却による、血液透析穿刺痛の軽減効果』日本透析医学会雑誌 43巻5号
[/su_box]
血液透析における穿刺痛は、痛みの原因の分類でいうと
"侵害受容性疼痛"(組織の損傷を感知する痛みの受容器《侵害受容器》への刺激に起因する痛み 引用元:MSDマニュアル家庭版)
というらしい。
穿刺時疼痛は患者に
穿刺前の不安感や恐怖感、苦悩を与え、治療満足度を下げる。
そりゃそうです。
[su_note note_color="#e7ebeb"]
健康診断等の採血で使用される針の直径が0.7㎜に対して
血液透析での穿刺針の直径は1.5㎜~1.9㎜(17G~15G)。
[/su_note]
これほど太い針を、毎回の治療で少なくとも 2 回(脱血側/返血側)、週に3 回
生涯にわたり刺され続けるわけですから、透析患者の苦痛や心理的ストレスは非常に大きい。
(ちなみに私は週6回💦)
一般的に「痛み」は不快なストレスであり
生体のホメオスタシス(恒常性)を妨げる"ひずみ"となり
健康を害することに繋がる。
加えて
痛み刺激というのは、大脳を介して交感神経の活動を増大させ
高血圧や動脈硬化を促すそうで、痛みを適切に管理することが大切となる。
局所皮膚冷却による穿刺時疼痛の軽減
穿刺時疼痛の軽減で、私個人的に頭に浮かぶのは(※使用したことがある、という点で)
ペンレステープ(リドカインテープ)
比較的広く使用され、疼痛軽減に有効であるものの
副作用として発赤、そう痒が認められる点が挙げられる。
参考文献『局所皮膚冷却による、血液透析穿刺痛の軽減効果』では
内シャント穿刺に伴う疼痛について、穿刺局所を
- 20℃に冷却した場合
- リドカイン貼付を使用した場合
- 何もしなかった場合
で比較している。
結果としては
血液透析患者の内シャント穿刺において、穿刺局所を20℃前後に冷却することで、リドカイン貼付と同程度の穿刺痛軽減効果を期待でき、副作用もなく、有効な方法と考えられた。
と述べている。一方で
- 冷却用ジェルを一定時間置くことで皮膚温が低下しすぎないような工夫が必要であること
- 冷却用ジェルを取り除いてから直後に穿刺することを、日常の穿刺作業のなかで繰り返すことはやや困難であること
も追記されている。
エムラクリームによる穿刺時疼痛の軽減
ペンレステープ(リドカインテープ)では
上記でご紹介した副作用が出たり、疼痛緩和が十分でない患者に対して
"穿刺痛を著しく緩和し、患者のQOLを高めた"
とするのが《リドカイン-プロピトカイン配合クリーム》(エムラクリーム)。
リドカイン-プロピトカイン配合クリームを使用する場合、塗布した後
ラップフィルムによる"閉鎖密封法"を行う。
"閉鎖密封法"というのは、クリームを擦りこむのではなくて
厚く盛った後そのままラップフィルムで覆って60分待つ。
これにより
バリア機能の高い表皮の角質層を"ふやけさせ"て
麻酔効果をもつリドカインとプロピトカインの分子が
皮膚のより深いところまで到達することが可能となった。
(尚、現在はクリームを塗ったあと専用のパッチで押さえる方法になっているという)
「薬剤が皮膚のより深いところまで到達する」ことを裏付けるデータが
参考文献にございましたので、ここではそのまま引用してご紹介致します。
実際に、リドカイン‒プロピトカイン配合クリームを閉鎖密封塗布後、皮膚のパンチ生検(直径 4 mm)を行い、どの深さまで疼痛が許容されるかを検討したWahlgrenらの報告では、60 分の閉鎖密封法で平均2.9mm、120分で平均4.5mmの深さまで麻酔効果が認められた。一般的に表皮は約0.2mm、真皮は約2~3mmであることから、血液透析の穿刺60分前の閉鎖密封塗布にて、十分に深い部位での麻酔効果が得られることが示された。
引用元:『リドカイン-プロピトカイン配合クリーム(エムラクリーム)による透析穿刺疼痛の緩和』日本透析医学会雑誌 50巻7号
また、"クリーム剤である"ことの利点として
「皮膚の血管形状に合わせて塗布することができ、ペンレステープ等のテープ剤にある皮膚のかぶれが起きにくい」
との記載もございました。
私が自己穿刺時、"局所麻酔薬"を使用しない理由
これまでご紹介したように
ペンレステープやエムラクリームに、穿刺痛の緩和効果が認められているにもかかわらず
なぜ私は、これらの薬剤を使用しないのか?
やはり在宅血液透析が"他者穿刺"ではなく
"自己穿刺"
であることが大きな要因です。
痛みの"効用"を大切にしたい
これが、最大の理由。
後のものは❝おまけ❞といっても良いでしょう。
遺伝性の抹消神経疾患の一つである「先天性無痛無汗症」という難病を、ご存じでしょうか。
私は以前、テレビ番組の中で、その存在を知りました。
(詳細は分かりませんが)
人間、熱いものを触れば、反射的に手を引っ込めますし
捻挫や骨折があれば、痛みで患部を動かすことは困難。
つまり、人は、痛みを感じることで自己防衛機能が働きます。
痛みがあるから、症状が酷くなる前に、適切な処置が施せるわけですね。
これは、穿刺についても同じなのでは、と私は思っています。
痛みを感じることで
その痛みを確かめながら、正しい所に穿刺することが出来ます。
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誤った場所、謝った角度で穿刺してるにも関わらず、感覚が麻痺してることでそれに気づかない。
その状態から、無理に針を押し込めば、深部で激痛が襲うかもしれません。
血管を突き抜けてしまうかもしれません。
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通院血液透析における穿刺の手技者は、患者の痛みを
「大丈夫ですか?痛みや痺れはないですか?」と問診することで理解してることと思いますが
在宅血液透析における自己穿刺では、当たり前ですが、
自分で自分の痛みを知る、つまり自分と"直接対話"ができるんですね。
それをペンレステープ等で痛みを麻痺させてしまったら
その対話が出来にくくなるのでは、と私は思っているわけです。
いつ、どのように刺しても(程度の差こそあれ)痛いわ痛い。
その傷みの程度を感じとりながら
針先を先へ進めるか修正するか、押し進めるのを止めて一旦針を抜くか
そのあたりの判断を穿刺毎に自分自身で行うのは
肉体的、というより精神的に疲弊しますが…
自己穿刺の稀有なところ、それは、
「能動的側面」と「受動的側面」を併せ持つ
ということ。
まさに
sadisticな自分とmasochisticな自分とが
脳内で、せめぎあいを展開するわけですね。
※自己穿刺の"言語化"👇
感覚がないという「感覚」が苦手
皮膚の表面だけが麻痺してる、あの感じが、そもそも苦手です。
打ち身や打撲でアイシングをすると、冷やされた患部が少し麻痺しますが、あの感覚に似てます。
つまり先にご紹介した
『局所皮膚冷却による穿刺時疼痛の軽減』この場合
感覚がないことが、余計"変な痛み"を感じさせるんですね、私は(言語化するのが難しいですが…)
VA(Vascular Access)を造る時のように
あそこまで麻酔が効いていれば、もちろん上記のような"変な痛み"は感じませんが
穿刺時にそこまで麻酔が効いてしまっては
"痛みの効用を大切にしたい"
の話は、どこかいっちゃいます。
皮膚がかぶれる可能性あり?
私の場合、穿刺針を抜いた後の
患部に貼るインシェクションパットで、皮膚がかぶれてしまいます。
今では、止血直後はそのインジェクションパットを止む無く貼りますが
就寝する直前(深夜1時頃に透析が終わり、そこから約1~2時間後位)
インジェクションパットを剥がし、確実に止血がなされていることを確認してから
"エレバンショット"(一般的な採血後に貼るパッチ)に貼り替えてます。
粘着力もインジェクションパットほど強くなく、粘着面も狭いので。
ペンレステープをHHD導入トレーニングで数回使った際、少し痒みがでたこと記憶してます。
恐らく常用していたら、皮膚かぶれを生じる可能性大。
私は基本的に、皮膚が弱い。
痒みでシャント肢をかきむしってしまっては、衛生面で問題です。
そうならないように、シャント肢の皮膚保湿は必要。
まめに保湿をしていても、皮膚がかぶれること、たまにあり
皮膚科にお世話になることもあります。
現在は月1回の外来時
「ヒルドイドローション(ヘパリン類似物質)」を処方してもらい
入浴直後は勿論
空気が乾燥する冬場は、こまめに塗布しています。
ルーティーンが増える
《ペンレステープ》しかり《エムラクリーム》しかり
使用する場合当然、穿刺前に貼付/塗布する必要があります。
※添付/塗布時間についてはリンク先にてご確認下さい。
HHD導入トレーニング時、自宅からクリニックまで
片道door to doorで1時間半、電車には約1時間乗って通っておりました。
トレーニング当時は、穿刺から逆算して車内でペンレステープを貼っていましたが
在宅血液透析導入9年目(2022年4月現在)の現在では
大体の透析スケジュールはあるものの、若干横ズレすること多々あります。結果
「穿刺から逆算して30分」
というのを、キッチリ実践するのは、難しいわけです。
何より、ペンレステープ(使ったことありませんがエムラクリーム)のためだけに
"意識"も"時間"も拘束されるのは、正直、少し面倒なのです。
まとめ
最初に書きましたが、
ペンレステープ/エムラクリームを使わない最大の理由は
痛みの効用を大切にしたい
というものです。
透析での毎回の穿刺の痛みは、肉体的、精神的に疲弊します。
加えて現在の透析スケジュールは週6回の連日血液透析
ほぼ毎日、自分で自分の腕に"あの"太い針を刺しているわけです。
穿刺時、特に穿刺ミス時の"痛み"の感じ方は
肉体的な"痛み"に加え、精神的な要因もあるんじゃないかと、個人的には推測してます。
通院血液透析で臨床工学技士や看護師の方々が穿刺を行い、それが"ミスった"りすると
患者さん側も恐らくイイ気はしないでしょう。
穿刺時の痛みの程度は手技する人による、と思っている患者さんは
「今日は誰が刺してくれるのかな~」と、待つ間はドキドキ感
そこで穿刺が失敗したり、痛かったりした場合
スタッフに嫌みの一つや二つ言ってしまう患者さんもいるでしょうね。
つまり(私が想像するに)
通院血液透析による他者穿刺での穿刺時の痛みは
患者側が予想"出来そう"で"出来ない"。
「あっ!今日は下手な人だ!」と思って刺されたら「やっぱ痛い!」
もちろん逆もあるでしょうね「あっ、意外と今日は大丈夫」とか。
「あ~良かった、今日は上手い人だ」と思って刺されたら「やっぱり痛くない、良かった」
もちろん逆もあるでしょうね「うっ!痛った!!」とか。
例えていうなら、他者穿刺は
「どんな球種か、バッターの手元に来るまで分からない」
一方、自己穿刺は文字通り"自分で自分の腕に針を刺す"わけですから
穿刺する側/穿刺される側が、いわば一心同体なので
ある程度、心の準備ができるということは言えるかもしれませんね。
だからといって、決して楽なものではないですよ。
痛いの分かっていて、自分で能動的に刺さなければいけないというのは
結構、酷です…
それでも、在宅血液透析によってもたらされる効用の大きさを考えると
"その程度の痛み"は耐えれるわけです。
というか、耐えるしかないんですけど…
"自分で自分の腕(血管)に針を刺す"自己穿刺
在宅血液透析導入の際の大きな"導入障壁"である、と
一般的に言われているようですが
そんな自己穿刺を
「通院血液透析」で"あえて"選択される患者様もいらっしゃると聞きます。
そのような患者様の真意は、いかなるものなのでしょうか。
更にそういった患者様は
局所麻酔薬を使用しているのでしょうか
はたまた、使用していないのでしょうか
非常に興味あります。
さっ!今日も頑張って刺しますか!!
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。